みずのにおい
引っ込みじあんのようなむつに、何かを探るかのように見つめられ、西原は少し居心地が悪くなった。
「…気を付けてくださいね。山の中ですし、何があるか分かりませんし…」
「ん、あぁ…夜出歩くのはやめるよ。むつちゃんは中に戻りな?髪の毛濡れてるし、風邪ひかれたら困るから」
「分かりました…失礼します」
少し残念そうな表情を見せたが、むつは言われた通りに戻っていった。そして、しばらくすると高石が戻ってきた。
「遅い‼」
「お前もな…2時間くらいって言っただろ?」
「ばかか。倍は経ってる…携帯も繋がらなかったし…むつちゃんは?」
「部屋に戻らせた。髪の毛濡れたまんまで外に居たら風邪ひくだろうしな」
「そうか。むつちゃんも心配してたぞ」
「悪い事したな…でも、そんなに…」
目的地までは1時間ちょっとで行けたのに、帰りでそんなに時間を取られるはずはない。だが、西原が携帯で時間を確認すると、高石の言った通りだった。2時間程度で戻るつもりが、その倍近くの時間が経っている。それに携帯が繋がらなかったと言っていたが、今はちゃんと電波も入っている。
「酔って寝てたのか?」
「いや、そんなはずは…真っ直ぐ帰ってきたけど。着いた時は1時間ちょいしか経ってなかったし」
「迷子か何かにでもなってたのかもな」
見付けた道を行こうとして、嫌になり引き返しはしたものの、後は来た道を真っ直ぐ戻ってきている。迷子になどなるはずがない。だが、それを言った所で仕方ない。西原は苦笑いを浮かべて、そうかもなと言った。
「はぁ、疲れた。俺らも風呂入って寝よう」
「そうだな…心配かけて悪かったな」
「本当にな。俺まで走る羽目になった…ったく、ご飯食べてビール呑んでの後にジョギングなんて…普通はしないよ」
ぶちぶちと高石が文句を言うが、西原は心配をかけているだけに言い返す事は出来ない。親友の愚痴を聞きながら、バンガローに戻っていった。




