みずのにおい
缶ビールを呑みながらも、むつが手際よく調理を進めたおかけで、カレーも米もサラダも美味しそうに出来ている。1回生の残りの2人は、すっかり酔っ払っていて使い物にならない。それでも、むつは何の文句も言わなかった。それどころか、甲斐甲斐しく水を持っていってやったりしていた。食事も後回しにして動いているむつを、ぼんやりと見ていた。
「西原はむつちゃんにご執心?」
「ん?あぁ…なんつーか世話好きな子だなって。周りもよく見てるし、良い子だよな」
「確かに。何だろ…尽くすタイプの子?」
「さぁ?そこまでは分かんないけど」
「あぁも色々してくれると、何か悪い気がしてくる。それに…何か、何だろう…」
「何か引っ掛かる感じはするな」
「そうだな…にしても、市販のルーって作る人によってこんなに味が違うんだって感動するよ」
「確かに。うまい…米もちゃんと炊けてるし…今までのやつらの中で1番上手く飯盒使えてるな」
他のメンバーがおかわりをと言うと、むつは返事をして米をよそってカレーをかけている。それを見ていた西原は、何となくむっとした気分になった。
「むつちゃん、ちょっとこっち来て」
「…はい?どうかしましたか?」
「そこ座れ」
西原は自分の横の席を、とんとんっと指で叩いた。命令口調で言われ、嫌そうな顔をしたむつだったが、先輩の言う事に逆らう気はないようで大人しく座った。むつが座ると西原は立ち上がり、どこかに行って、すぐに戻ってきた。
「…他のやつらの事はもういいから。自分でやらせろ。むつちゃんも皆と飯食わなきゃ一緒に来てる意味がないだろ?」
テーブルに皿を置かれて、むつは西原の方を見た。高石も、そうだねと言っている。
「…はい、ありがとうございます」
むつがはにかんだように笑みを浮かべると、西原は頷いた。頂きます、と言ってスプーンを持ったむつを見て西原はよくやく座った。
「むつちゃん、カレー凄く美味しいよ。料理上手なんだね」
高石が誉めると、むつは首を傾げた。
「そんな事は…市販のルーのおかげですよ」
「そんな事ないだろ?飯盒も小学生以来とか言ってたけど、上手く米炊けてるし。明日の飯も期待出来るってだけで、来た意味がある」
「そんな大袈裟な…それに、軽くプレッシャーも混ぜてきてますね」
「まぁな。だって、今までもキャンプしてきたけど、1番うまい飯だからな。それは高石も言ってたぞ」
「うんうん。1番美味しい」
「…ありがとうございます」
消え入りそうな声で言って、むつはカレーを口に運ぶと、もごもごと噛んだ。




