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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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みずのにおい

食事は1回生に任せ、他のメンバーはそれぞれ買い込んだ酒を呑んだりしながら、のんびりと過ごしている。西原は缶ビールを片手に、むつの隣にしゃがんだ。むつは石を積み上げて作った窯で、鍋をかき混ぜている。


「あ…お腹空いちゃいましたか?」


「いや、大丈夫。むつちゃんが手際よくやってるって他のやつらが言ってたから見に来た。呑む?火の側で…」


火の側に居たり、あっちこっちと動いているむつに差し入れと思い、西原は缶ビールを差し出した。顔を上げたむつの鼻の頭に、灰がついてるのに気付いて西原はくすくすと笑った。取ってやろうとしたが、ほんのりと汗をかいていたのか触ると、灰色の筋になってしまった。


「あ、ごめん…灰を取ろうとしたら…」


むつはあまり気にしてないのか、手の甲で、鼻の頭ら辺をごしごしとこすった。


「これで…大丈夫そうですか?」


「うん、大丈夫だな。ほれ、火の側で暑いだろ?ちょっと休憩に」


「…未成年ですよ?」


「…だよな」


「むつちゃんは真面目っ子だよね。菜々ちゃんは向こうで呑んでるよ?」


「高石先輩…え?なぁちゃん呑んでるんですか?」


西原の頭に顎を乗せるようにしてかがんだ高石が言うと、むつは驚いたような顔をして、きょろきょろと菜々を探した。高石が指差す方には菜々が他の先輩たちと、楽しげにビールを呑んでいる姿があった。


「…なぁちゃん、弱いのに」


仕方ないなぁと言いたげなむつは、溜め息をついている。むつが菜々の保護者のような感じで、西原はくすっと笑って冷えたビールをむつの頬に当てた。


「顔赤いぞ?暑いんなら、少しくらい呑んでもいいだろ。楽しくやらないとな」


「そうそう…でも、ご飯は申し訳ないけど、むつちゃんにお任せするよ?むつちゃん以外の2人は、もう…ダメだね」


「ダメって、呑ませたのお前だろ?」


「まぁね。これも通過儀礼ってやつだよ。だから、むつちゃんも適度に呑んで」


「だ、そうだ」


むつは押し当てられた缶ビールを受け取ると、ぷしゅっと開けた。


「…頂きます」


何故だか、西原と高石はむつが呑むのを待っているかのように、じっと見ている。見られていると呑みにそうではあるが、むつは口をつけてこくこくと呑んだ。


「ふぅーっ」


むつが指先で唇を拭うのを見て、西原と高石は顔を見合わせた。


「こいつは、やばいな」


「うん、やばいよ。むつちゃん…お酒強いね?それに、猫被ってるよね?」


「猫被ってるし、前髪で顔隠してるけど、なかなか可愛い顔だったしな」


「あ、そうなんだ?それは見たいな」


にこにこした高石が前髪に触れようとすると、むつは素早く避けて立ち上がった。


「ビールありがとうございます。もう少しでお米も炊けますから…ご飯までもう少し待っててくださいね」


缶ビール片手に、むつが逃げるように居なくなると西原は首を傾げた。そんなに、顔を見られるのが嫌なのだろうか。

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