みずのにおい
「西原」
「よ、高石」
中性的な顔立ちの男に、西原は買い物袋を押し付けた。高石は嫌がる事もなく、買い物を両手に2つずつ持って西原と並んで歩きだした。ほっそりとして柔らかそうな身体つきの高石と、マッチョとまではいかないが筋肉のしっかりついてる西原とでは対照的だったが、かなり仲は良い。
「どう?今年の1年生は」
「どうって…5人しか居ないだろ?そのうち参加者は3人だし。俺はむつちゃんとしかまともに喋った事ないし」
そう言った西原は、むつとも大して喋ってはないかと思ったが、それは黙っていた。
「サークルから同好会に格下げかな?」
「あり得るな。まぁ仕方ないだろ…そもそもが、大して活動してるわけじゃないし。運動部ってわけじゃないからな」
「まぁそうだけどさ。女の子が入ってくれたのはまだ良かったよ。来年とかはあの2人がきっと盛り上げてくれるよ」
高石の言う、あの2人の女の子というのがむつと菜々だという事は西原もすぐ分かったが、果たして菜々はともかく、むつが乗り気でやるとは思えなかった。
「菜々ちゃんが頑張るだろ」
「そうかな?むつちゃんの方がしっかりしてると思うよ?ほら…」
バンガローに荷物を置いて、高石と共に外に出た西原は、外を見ておやっと思った。意外にもむつがてきぱきと石を置いたり、菜々ともう1人の男に指示を出していた。
「へぇ…大人しい子って思ったけど、人を動かしていけるタイプの子だったんだな」
「頼りがいあるよ」
男子生徒に大きな石を運ばせ積み上げさせ、菜々には枯れ枝を拾い集めさせながら、むつは水場で米を洗って飯盒の用意をしている。
「凄くしっかりしてる子だな。手際良いし。なんつーか、たくましい?」
「女の子にその言葉が相応しいかは分からないけど…確かにね。それに意外と楽しそう」
西原は、てきぱきと動いているむつを見て頷いた。楽しそうだし、何だか生き生きとしているように見える。車内でぐったりしていた時とは、大違いだった。
「男の方はともかく…女の子たちはサークルを楽しんでくれそうで安心だよ」
「そうだな。最後の1年が楽しくなるな」
4回生で就職活動に卒業論文にと追われているはずの西原と高石だったが、並んでタバコを吸いながら、1回生が一生懸命な姿を微笑ましく見守っていた。




