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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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みずのにおい

さらっとした前髪がわかれて、つるんとした額と顔がようやくはっきりと見えた。しゃがみこんだ西原は、その顔をまじまじと見た。アーモンド形の目はくっきりしているし、唇はピンク色でふっくらとして柔らかそうだった。


「…結構、可愛らしい顔してんな。前髪で隠してたら勿体無くね?」


西原に見られていると分かったむつは、すぐに前髪で顔を隠してうつむいてしまった。その素振りからして、大人しいのではなく恥ずかしがり屋なのかと西原は思った。ちゃんと礼や謝ったりは出来るし、何か言えば答えるし、少しだけだが笑いもしていた。あまり自分を出せない子なんだな、と西原は思うと少しだけむつの印象が変わったような気がした。


「あ、タバコくれるか?持ってるだろ?」


「は、はい…ごめんなさい。持ったままで」


手を差し出すと、ペットボトルを地面に置いてむつがタバコの箱とライターを西原の手に乗せた。ほんの少し触れた指が、ひんやりと冷たい。窓を開けっぱなしにしていて、冷えたのかもしれない。


「手冷たいな?寒いか?」


「い、いえ…少し冷え性なんです」


「女の子って大変だな。あんまり地面にじかに座らない方が良くないか?尻から冷えるぞ?…と、これは俺のじゃないな。何だ、むつちゃんもタバコ吸うんだ?」


「あっ…まぁ…あの…はい…」


西原の手の上にある箱を引っ込めて、わたわたとポケットをさぐっているうちに、手がペットボトルに触れて倒れそうになると、西原はすかさず受け止めた。ペットボトルを倒しそうになったり、タバコを間違えたりで慌てているむつを見て、西原は堪えきれなくなったように笑い出した。


「落ち着けって。何だよ…大人しいし、冷静な子かと思ったら…意外と…おっちょこちょいだな」


「そんな事…はい、西原先輩のです」


名前を呼ばれた事がなかった西原は、むつがちゃんと自分の名前を知っていると分かり、嬉しくなってまた笑みを浮かべた。


「ありがとう。むつちゃんもタバコ吸うからあれか?さっき、火つけたり箱から1本だけ出してくわえやすいようにしてくれたりってのに慣れてるのか?」


「はぁ…それも、あるかもしれませんが…うち兄が4人居て、そのうちの2人が吸うので…慣れてるのもあると思います」


「へぇ…お兄さんが4人か…大変そうだな。だから、あれか?すぐに箱拾ったりしてくれたんだな」


「兄も運転しながら吸おうとして、よく箱落としたりしてましたから」


意外にも男兄弟の末っ子だと知った西原は、むつをじっと見た。男兄弟しかいないなら、もっと活発な子になっても良さそうなのに、むつは本当に口数も少ないし大人しい。


「…ん?じゃあ、あれか?煙くて窓を開けたかったんじゃなくて」


「はい…車酔いしてたから窓を開けたかっただけです」


「もっと早く言えよ…そんなに、俺って話し掛けにくいか?」


「え、いえ…全然…そんな事は…」


「さっきも言ったけど、気分悪かったんなら休憩だって出来るしさ。体調崩してまで無理する事じゃないんだから」


「はい…でも、買い出しして他の人より遅くなってるわけじゃないですか…置いてかれたって言ってましたから…そんな事で時間取らせるのは…」


買い出しやら何やらで、他のメンバーよりも遅い出発になっている事を西原が言ったのを気にしていたようで、言い出せなかったのだと分かると、西原は溜め息をついた。


「…気遣いすぎ。俺にはそんな気遣わなくていいからな?それから、俺が言った事をそこまで気にしなくていいから。むつちゃんって、優しい子なんだな」


西原がタバコに火をつけて煙を吐き出しながら言うと、むつはちらっと西原を見たが結局は恥ずかしそうにうつむいてしまった。


「むつちゃんもタバコ吸えば?んで、少ししたら出発しようか。あ、お茶貰っていいか?」


むつが口をつけた物だという事は全く気にしてないようで、西原はごくごくと飲んでいる。むつはそんな西原の気さくさを見て、少し笑みを浮かべるとタバコをくわえて火をつけた。

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