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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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みずのにおい

「あの…窓少し開けてもいいですか?」


「あ、ごめんっ‼煙かった?ごめん、ごめん。全然良いよ、開けて開けて」


窓も開けずにタバコを吸っていた西原は、申し訳なくなり運転席と後部座席の窓も少しずつ開けた。助手席のむつは半分ほど窓を開けると、はぁーと深く息をついた。まるで呼吸を止めていたかの様子に、西原はますます申し訳ない気持ちになった。


助手席から入ってくる風で、むつの前髪がさらさらと揺れると、顔がちらっと見えた。だが、つらそうに目を閉じているからか、どんな顔ななのかはいまいち分からない。ただ、甘い香りがふわっと漂ってきた事だけは分かる。


西原はタバコを吸い終えて、ぎゅっと灰皿に押し付けて火を消した。まだ車内には煙の臭いが残っているからか、西原は窓を開けたままにしていた。車内の空気が入れ替わり、臭いも気にならなくなってきても、むつは窓を閉めようとはしない。後ろの窓を閉めた西原は、ちらちらとむつを見ていた。山の中に入ってきて春とは言えど、気温は低い。むつもずっと鼻をすすったりはしている。それでいても、窓を閉める気配はなく窓に頬を押し当てるようにして寄り掛かっている。


しばらく、むつの様子を見ていた西原は、ふっと何に気付いたようにゆっくりと車を停めた。むつが、どうしたのかと西原を振り返った。その気だるげな様子からして、西原は自分の考えが当たっていると確信した。


「降りようか。車酔いしてるだろ?顔色悪いし、何かつらそうに見えるからな」


「…すみません」


絞り出すような声でむつは謝り、西原に続いて車から降りた。かなり体調が悪いのか、むつはよろめいて車に寄り掛かるようにして立っている。西原は後部座席のドアを開けて、ごそごそとあさってペットボトルを取り出した。


「冷たくないけど…ほら」


「あ、ありがとうございます」


ペットボトルを受け取ったむつは、ふーっと息をつきて、ずるずると座り込んだ。


「お、おいっ…大丈夫か?」


「はい…すみません、ご迷惑をおかけして」


「いいって。でもさ、車酔いしたんならしたって言えよ。休憩くらいで文句言ったりしないぞ?そこまで、俺は酷いヤツじゃない」


座り込んでいるむつは西原を見上げて、ぽかんとしていたが、くっと笑った。


「何だよ?飲まないのか?貸してみ、開けてやるから」


むつの手からペットボトルを取ると、西原はキャップを外してからむつに渡した。


「…ありがとうございます」


こくっと一口飲んだむつは、ふーっと息を吐いて空を見上げた。


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