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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
984/1310

みずのにおい

「………」


「………」


がたがたと揺れる車内。運転席の男、西原と助手席の女、むつは一言も話をせずに、ただ前を見ているだけだった。見渡す限り何もなく、道路の左右には自由に枝を伸ばしている木々が鬱蒼としている。ハンドルを握っている西原は、何度目かの溜め息をこっそりとついた。


サークルの新入生歓迎会として、毎年行っているキャンプで、西原とむつは道具係りになってしまい、後部座席を倒して所には、色々な物が積み込まれていた。正直言って、外れの雑用係だ。だが、それも会話の弾む相手となら楽しい。それなのに、今一緒に居る新入生のむつは、あまり口数が多くなく開和が弾まない。最初は、自分が4回生で1回生のむつに緊張をさせているのかと思ったが、そうではなさそうだった。どうやら、自分はあまり良い印象を持たれていない。西原はそう感じていた。話し掛ければ返事はあるし、それなりに言葉も返ってくるが、なかなか会話が続かなかった。常に会話をしていたいわけではないが、何となくむつと居て静かになると居心地が悪い。むつの方もそれを思っているのか、ふうと溜め息を漏らしていた。


目的地に着くまでは、あと1時間くらいはかかるだろう。その間、全く会話なしでいるのもつらい。それに何よりも、新入生歓迎会なのだから、自分がむつを歓迎してやらなくてはいけない立場だ。むつにどう思われていようとも、歓迎の姿勢を見せてやりたいが、歓迎する気にはなれない。一緒に居てもつまらなさすぎるのだ。


会話が無さすぎて、居心地の悪い西原は、ちらちらとむつを見ていた。黒い髪の毛は長く、きちんと手入れされているのか艶やかだ。それに隠しているようで、隠しきれていない棟の膨らみもなかなかの魅力ではある。だが、目元が隠れるくらいの前髪と黒ぶちの眼鏡のせいで、暗いような印象になっている。きっと彼氏なんて、出来た事ないんだろうなと西原は思っていた。


「なぁ、むつちゃん…タバコ、いいかな?」


「はい…」


西原はパーカーのポケットからタバコとライターを取り出して、片手で出そうとしたが、なかなか上手くいかない。そうしているうちに、ライターを落としてしまった。ちっと舌打ちした西原は、1度車を止めようとしたが、むつがシートベルトを外して足元のライターを拾い上げてくれた。そして、ついでのように西原の手からタバコの箱を取ると1本取り出して西原の口元に持ってきた。


「あ…ありがとう」


西原がタバコをくわえると、むつはライターで火をつけた。そして、箱と一緒にライターを持ったまま、また大人しく座っている。気が利くのに、地味で暗い印象って勿体無いなと思いはしたが、西原は黙って煙を吐き出すだけにしておいた。

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