みずのにおい
何の酒なのかと警戒気味ではあったが、呑んでみるとほんのりと甘く口当たりが良い。
「むつ、呑みすぎるなよ」
「んー?大丈夫、大丈夫」
呑みやすく、するすると入っていってしまうからか、颯介と山上と同じペースで呑んでいる。2人は酒が強いようで、顔も赤くはなっていないし、全然酔っている風ではない。だが、むつはすでにとろんっとした目をしている。祐斗は遅くまで呑むつもりでいるのか、しっかりと食事をしつつ、水を飲んでいる。
「ふーん…美味しい」
「うん、酔ってるな?戸井さん、すみません氷水ください。氷多めで」
立ち上がった西原は、カウンターの前まで行くと、ジョッキに入った氷水を貰って、むつの前に置いてやった。むつは赤い顔をしてジョッキを持ち、こくこくとゆっくり飲んで郡を口に含んでもごもごと舐めている。
「ひゃんかは、あえよね」
「何言ってるか分かんねぇよ」
西原が困ったように笑うと、むつはがりっと氷を噛んだ。口の中で氷が溶けてから、むつはもう一口水を飲んだ。
「何か、あれよね?」
「どれだ?」
「このお酒、水の匂いがする…昔と同じ…」
むつが目をしょぼしょぼとさせて呟くと、西原は少し目を細めた。昔と同じで水の匂いがする。西原は、そういう事かと少しだけ頷いた。
「誰が作ったのか知らないけど…きっと綺麗な湧き水とか使ってるのかもね」
「分かるのか?」
「ううん、分かんない。でも、あの時は綺麗なお水が流れてたから」
「お前、よく覚えてるな」
また氷を口に含んで転がしながら舐めているむつは、ゆっくり西原の方を向いた。そして、目を細めて笑みを浮かべた。
「先輩は?忘れちゃったの?」
「いや、覚えてる。初めて見たからな…お前の能力も妖ってやつも」
こくっと頷いたむつは、がりがりと氷を噛んで飲み込んだ。そして、ふわふわと欠伸をして目を擦った。眠くなってきてるのがよく分かるが、むつは頑張って起きておくつもりなのだろう。何としても寝ないようにと、また水を口にした。




