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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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みずのにおい

ぞろぞろと5人は、最近来ていなかった赤い提灯のぶら下がっている店にやってきた。鶏一と書いてある居酒屋は、まだ開店前で暖簾も出ていないし、提灯に明かりも点っていない。だが、むつは慣れた様子で、引き戸を開けた。


「こーんばんはーっ」


「お、いらっしゃい。久し振りっすね。仕事納めだそうで…皆さんお疲れ様です」


「ありがとうございます。すみませんね、早くからお邪魔させて貰っちゃって」


「いえいえ、お気になさらずに。それに少し早いだけじゃないですか。その分、早めに閉めちゃいますから」


にこにこと笑いながら、もやしのようにほっそりとした戸井が、座敷にどうぞと言った。むつは来慣れているからか、カウンター席に置いてある灰皿を2つ持って、座敷に上がっていく。だが、靴は脱がずに戸井の所に行くと、ひそひそと何かを話している。戸井は少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに頷いて笑みを浮かべた。そして、戸棚から小さなグラスを6つ出してむつに渡した。ついでに、とおしぼりも持たせると、むつはそれを運んできた。


「グラス借りてきたよっ。戸井ちゃん」


むつが手招きをして、ぽんぽんと自分の横を叩いた。戸井は少し迷うような仕草を見せたが、厨房から出てきて座敷に腰をかけた。そして、祐斗が貰った瓢箪の栓をきゅぽんっと開けた。


「わ…何か甘い香りがする」


並べたグラスに、むつは一口分ずつを注いだ。少しとろっとしているような透明の液体がグラスに注がれると、それを皆に回した。


「戸井ちゃんはこらからお仕事だけど…ちょっとだけならね、折角だしさ」


「そうだな」


山上も頷くと、戸井は少し申し訳なさそうに会釈をした。かちんっと静かにグラスを当てて乾杯をすると、むつは戸井とグラスを合わせて、少し笑っていた。


「…不思議な香りですね」


「うん、蜂蜜みたいな香りだな」


祐斗と西原は、グラスに鼻を押し当てるようにして、くんくんと匂いを嗅いでいる。山上と颯介は匂いを嗅いでから、くっと一口呑むともごもごと口を動かした。


「少し甘いな」


「そうですね。何のお酒なんでしょうか」



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