みずのにおい
「わっ‼やべやべっ‼」
がたがたっと音がして、諦めたようなあーというむつの低い声が聞こえてきた。掃除してるはずだよな、と西原はソファーから立って、デスクが並んでいる方を見た。床には、紙と共にファイルが何冊か落ちている。むつはそれを1枚ずつ見ながら、ファイルに入れている。
「…何してんだよ」
「積んどいたら滑っちゃって落ちたの。あ、足元の頂戴?」
西原が拾ったのを渡すと、むつはそれを確認してファイルをめくって中に入れた。
「どこに何があったか覚えてるのか?」
「ん、まぁ感覚的に?」
「…勘ってやつだな」
まぁねと呟くとむつは落ちた紙をファイルに入れると、とんとんっとならしてから、颯介と祐斗の後ろにある棚にしまった。よく見ると、むつの机の上にはよく分からない物がまた増えている。何に使うのか分からないが、トーテムポールの置物もある。西原は細々した物を1つ1つ手に取って、見てみる。どれもどこかの土産物のようで地名なんかが書いてある。
「あ、それ?お客さんからの貰い物。ほら、ご当地キャラクターみたいな?」
「ちゃんと取っておくんだな?」
「まぁね。捨てたら申し訳ないし。いらした時に、置いてあるって分かる方が良いかなって」
「そこまで考えてるのか」
「ま、接客も大事だし。お土産持ってきてくれるって事は、それなりによく思ってくれての事だと思うしね。貰うのは嬉しいし」
置いてあるだけだが、どれも埃はかぶったりしていない。それだけ、こまめに手入れをしている証拠だろう。そこら辺に、むつの細やかさが現れてるなと思い西原は微笑んだ。
「祐斗、雑巾ぱす」
「はい」
「ありがとー」
だが、雑巾を投げて貰ったり、返すのに投げたりしてる辺りは少し雑かもなと思ったりもした。




