みずのにおい
「確かに、な…たぶん今は1人で居る事が不安なんだろうな。さっきも、祐斗の手を引っ張って行ってたもんな」
「あんな姿、今まで見た事なかったですよ」
「そうだな。前に、能力が使えないって分かって、これが普通なんだって感じても怖いって言ってたからな」
「まぁ怖いでしょうね。何かあっても自分1人で対応は出来ないわけですし。仕事納めの間、何もないと良いんですが」
「むつは何かと巻き込まれるからな。自分から首を突っ込む事も多いけど」
「そうですね…」
颯介と山上の話を聞きながら、西原は黙々と棚のネジを巻いていく。そして、むつが最近は何かと甘えてくるのは、自分にだからではなく、ただ情緒的不安定で誰かを頼りたかっただけなのだと知り、こっそりと溜め息をついた。それに気付いた山上は、ばしっと西原の頭を叩いた。
「あほ、誰彼構わずあいつが甘えると思うか?」
「…考えてる事、分かりすぎませんか?」
「お前もむつも祐斗もポーカーフェイス上手いと思ってるみたいだけどな、そこそこ顔に出てるぞ」
「すみません…」
「西原だから甘えるって時もあるだろ」
「宮前さんが居ない時ですね」
「比べるな。むつがみやに甘えるのは当たり前だろ?お前がみやを越えられる存在なら、あそこは兄弟として成り立たねぇよ。みやはみや。お前はお前。代わりなんてないだろ?」
「むつにも同じ事言われました…誰かの代わりにはなれないって」
「それなら、どういう事か分かるだろ?むつはお前にだから甘える時があるんだよ。それでも…寄りが戻らないのは…まぁ仕方ないな」
「都合の良い男っすか?」
「だろうな。端から見ればな。むつにそんなつもりはないだろうけどよ。それよりな西原、左右で高さが違うぞ?」
「…あっ‼」
取り付けた板が右と左で1段ずつずれている事を指摘され、西原はネジをゆるめて取り外した。
「手伝いに来たんならちゃんとやれ。中途半端な事ばっかりしてんなら、とっとと帰れ」
「はい…」
「まぁまぁ、考え事してたんですし仕方ないですよ」




