みずのにおい
長い髪の毛を1度、ほどいてからくるくると巻いてお団子にしたむつは、気合いを入れるように腕捲りをした。雑巾とバケツ、クリーニング用のウェットティッシュを持ってむつは倉庫の中に入ると、昨日は不在だったが百鬼夜行の中で会った筆を手に取った。微かに酒の臭いがしているのは、狐たちから貰った酒をすでに呑んでいる証拠だろう。持ち手の部分を丁寧に拭いて、箱の中は乾拭きした。箱に戻して蓋を閉めると、礼を言うかのように箱の中から、かたかたと音がした。
むつはそれが嬉しいのか、鼻唄混じり1つ1つ丁寧に吹いていく。マリア像に、パワーストーンだというブレスレット。熊の彫り物に、兜。着物姿の日本人形もあれば、青い目の西洋人形と。多種多様な物が置かれている。
鼻唄混じりにご機嫌なむつをドアから眺めていた山上がくすくすと笑うと、はっとしたようにむつが顔を上げた。そこに居る事に、全く気付いてなかったのだろう。
「なぁ、むつ。昨日な、湯野ちゃんと棚を買いに行ってきたんだ。組立式のやつな。それをそこに置いて、みんなを並べて置いてやらないか?クリアケースも買ってきたから、箱が無いのはそれに入れて埃が被らないようにしてだな…」
「わっ、本当に?そうしてあげよ‼」
むつが喜んだ顔を見せると、山上は頷いて手招きをした。颯介と祐斗はまだそれぞれの持ち場が終わらないようで、むつは山上と一緒に、床に置いてある箱を見ていた。
「でもな、倉庫の物を全部出さないとこれは入れられないからな…かなりの重労働になるぞ」
「大丈夫。疲れたら休憩したらいいし…これは中で組み立てないとだよね?って事は…先にみんなを出してあげないとね。全部出して、棚作って、みんなを拭いて上げてから置いてあげる」
「その流れだな」
山上は頷くと、むつ同様に腕捲りをした。そして、倉庫に戻っていくと手近な物から外に運び出していく。




