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ひとりきり
そして、むつの顔がふいに浮かんだ。笑って馬鹿にしてくれたら良いが、哀れむような失笑をされそうな気もした。
とてもじゃないが話せそうにない。
祐斗は、四つん這いになっている吉岡を退けるべく、右足を祐斗から見た吉岡の身体の左側に出すように腰をひねった。上手く、吉岡の腰のあたりに足をかけるようにした。そして、顔を掴んでいた手をぱっと離し首筋に添えた。
「くっ‼」
腰に力を入れるようにして、右足と右手を右に流すように動かした。すると簡単に吉岡は、転がるようにして離れた。
その機会を逃さずに祐斗は立ち上がると、一目散にドアに向かった。そして、部屋を出るとドアを閉めて階段を駆けおりた。




