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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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むかっていく

「…一言くらい言わないとダメよ?颯介さんには言っておくからね?簡単なので良いなら作ってあげるから、でも材料費頂戴よ」


むつは管狐に鼻先を付き合わせるようにして、ぐりぐりと押し当てている。冬四郎はそんなむつの姿を見て、ほんのりと笑みを浮かべていた。


「…って事は?盗難の被害届は取り下げて、むつさん家の料理が消えたのも解決って事ですね」


「そうみたい」


祐斗がほっとしたような表情を浮かべると、むつは困ったような諦めたような笑みを浮かべてみせた。


「お酒貰ったし、大掃除したら事務所で忘年会もありかもしれませんね。皆で1品持ち寄ってとか」


「ありかもね。また作るのか…ってか、ここにこんだけ並んでるって事は、帰ってから作った分もないって事よね」


「かもしれないな。西原君のもなくなったし」


「え?俺?どういう事ですか?あ、そうだ、むつ‼お前なんで署から出てきたんだ?何かしたのか?」


「何もしてない‼差し入れしに行ったの‼当直だって言ってたし…全然、お礼出来てないなって思ったから。いなり寿司とか色々作ったの」


「あ…そうだったのか?それでわざわざ署まで?来てくれて、ありがとうな…でも、物はないと…」


「はい…ごめんなさい」


むつがぺこっと頭を下げると、冬四郎の肩に乗っていた管狐を一緒に頭を下げるような仕草をして見せた。西原と屈託なく笑って、むつの頭を撫でた。珍しく髪の毛を下ろしているからか、さらっとした髪の毛をついでに撫でている。


「残念だけど…気持ちは嬉しいからな。迷惑じゃないなら今度、また作ってくれるか?」


「…うんっ‼作るね」


照れたように笑うむつに優しげな眼差しを向ける西原を、祐斗と冬四郎はじっと見ていた。


「…何であんなに当たり前な感じに、ほのぼのらぶーなんですかね?」


「何でだろうな?」


「宮前さんは、良いんですか?むつさんと西原さんの寄りが戻ったとしても」


「そうなって、その先…別れる別れないは別としてもお互いが後悔しないならいいと思うな。西原君といてむつが幸せなら…」


「自分がって思わないんですか?自分が幸せにしてやりたいとかって…」


「…どうかな」


冬四郎の困ったような笑みを見て、祐斗は余計な事を言い過ぎたと思ったが、冬四郎を祐斗と見て微かに微笑んだだけだった。

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