むかっていく
筆である落武者、人形と続いてむつは前に立った。大きな瓢箪を狐が、せっせと皆に渡している。むつが立つと、狐は当然のようにむつに瓢箪を渡した。ちゃぷんっと水の音がし、ずっしりと重たい。礼を言ったむつは、受け取るとすぐに列から離れた。京井は、狐と何事かを話している。その仲良さそうな様子から、本当に何度も来ているんだと分かる。むつは他の妖たちは、どうなのかと辺りを見回そうとすると、肩にするっと何かが登ってきた。ふさっとした物が首筋を撫でると、くすぐったさに身をよじって肩を見るようにして首を曲げた。
「あら…管狐?ん?もしかして…颯介さん所の管狐?何でここに居るの?」
蛇のように、ひょろっと細長くちょこっとした足のある狐が、肯定するように首を上下に動かした。そして、ついっと京井の方を見た。
「あ、そっか…狐たちがお酒の用意をって言ってたもんね。管狐も狐だから、お手伝いに?良い子ね」
小さな額を指先でかくように撫でると、管狐は気持ち良さそうに目を閉じていた。
「お、嬢ちゃん」
「…あ、片車輪。こんばんは」
「こんばんは…って何しとんねん。お嬢ちゃんも酒貰いに来とったんやな?向こうで、アテもちぃとばかし貰えんで?行くか?」
水車のように大きな車輪に火をまとわせ、太い眉毛にむさ苦しいほどの髭を蓄えた恐持ての顔をした片車輪が、こいこいと手招きしている。むつは頷くと、管狐を肩に乗せたまま片車輪についていく。
「ほれ、そこの管狐。お嬢ちゃんとこの…湯野さんの管狐が用意してくれたアテやで」
「へぇ…そう、な…ん、だ?」
太い丸太を半分に割って作ってある机の上には、笹の葉を編んで作った皿が並んでいる。むつはそれらを見て、首を傾げて肩の上の管狐を見た。管狐は何を思ったのか、するっと肩から降りていく。だが、むつは手を伸ばしてがしっと尻尾を掴んだ。決して、強い力ではないし逃げようと思えば逃げられるはずだが、管狐はそうはせずにむつを振り返っている。
「ちょい待ち。見覚えありすぎる物ばっかりが並んでるけど…どういう事?つーか、手羽の入った肉じゃがとかさっき作ったばっかりな気がするわよ?」
喋れない管狐は、きょろきょろと目を泳がせているだけだった。その様子からして、犯人はこいつか、とむつは確信した。
「しろにぃ?犯人居たわよ。逮捕して逮捕」
瓢箪を貰った冬四郎は、むつの方にやってくると、くすくすと笑っている。むつは管狐を肩に乗せると、こいつが犯人と指差していた。冬四郎にじっと見られた管狐は、むつの髪の毛に隠れた。
「…アテを用意するのに、むつが作ったのを持って行っちゃったんだな。ま、許してやれよ」
優しく言われて、むつの髪の毛の間から出てきた管狐は、するすると冬四郎の腕を伝って肩に登って、ちょこんっと座った。颯介とあまり仲良くない冬四郎の肩に、管狐が登ってくるのが意外だったようで冬四郎は驚いていたが、嫌そうな素振りはなかった。




