むかっていく
「来るかな?」
「来るだろ…あの人も兄貴と一緒だからな」
くすくすとむつが笑っていると、列の横を通って前からやってくる大きな犬が見えた。冬毛なのか銀色の毛並みがふわっとしていて、とても暖かそうだが触りたくなるような見た目ではない。馬くらいの大きさはありそうで、開いた口から見える牙はむつの腕くらいはある。
「…あっ」
「本当に居たっ‼この前は、ありがと」
「な、何してらっしゃるんですか…ここで」
「うーん…ふわってしたのを追い掛けてきたら、百鬼夜行の中にって感じ?」
「はぁ…よく分かりませんが…お酒を頂きにいらしたわけではないようですね」
「うん…巻き込まれた感じ。ね、お酒をって何?何で居るの?」
犬の姿をしている京井は、むつと一緒に居る祐斗、冬四郎、西原の顔を見てから溜め息を漏らした。西原だけは、大きな犬を見て驚いているが、祐斗と冬四郎は軽く会釈をした。
「年末が近くなると、百鬼夜行が出るんですよ。皆で、お酒を頂きに来る為に。どんな訳か分かりませんが、むぅちゃんもそれに加わってしまったんですね」
「年末にお酒…年越しと新年を祝うのに?」
「えぇ。それもあります。ですが、元々は寿命の近くなった妖たちの為に振る舞われる物だったんですよ。ですから、ここに居る妖たちの中にはお酒を頂いて除夜の鐘と共に消える者も居ます。勿論、お酒を頂いて帰って年末年始に仲間内で呑む者たちも居ますが」
「はぁ…で、犬神さんは頂いて帰るの?妖の為のお酒って事は、こさめとか片車輪も来てるの?」
「片車輪は居ますよ。こさめさんは…まだ参加資格がありませんから、来れませんね」
むつは西原の事を気にして、京井の首元に身体を寄せるようにして小声で話した。ふわっふわの毛は、やはり暖かくて柔らかい。
「妖になってから10年して、こうやって妖としての仲間入りが出来るんです」
「へぇー妖社会にもルールがあるんだ」
「えぇ。私は毎年来てますよ」
「誰と呑むの?」
「特定の相手は居ませんが、ここには日本中の妖が集まってきてますからね。そこで適当に顔見知りの相手と、って感じです。今年は、片車輪が海神様の所にでも行こうかって誘ってくれたので…そうしようかと」
「片車輪と仲良くしてるんだね。ふぅん…そっか…妖の居酒屋さんってわけか…あたしら来ちゃって大丈夫なのかな?しろにぃは本当にただの人間だし…あたしらはほら、能力の事があるから人とは少し違うかもだけど」
「まぁ大丈夫ですよ。来れたって事は選ばれたって事ですからね」
京井がそう言うなら大丈夫か、とむつは安心したような表情を浮かべた。そして、久し振りに犬の姿になっている京井にぎゅうっと抱き付いた。
「こっちの遥和さんも好きだわ。暖かいし、何だか安心するの」
「…むぅちゃんは能力が使えなくなってから、本当に甘えたさんになりましたね」
「…そうかも」




