むかっていく
眼鏡をかけている男、西原駿樹は見間違えかな、と走り去っていく女の後ろ姿を見送ったが、すぐにまた足音が聞こえてくると、そちらを振り返った。
「西原君っ!!むつは!?」
「え…あ、あっちに…って、宮前さんまで…やっぱり見間違えじゃなかったんですね?」
「むつが盗難の件と関係あるかもって…何か急に走り出したんだ」
冬四郎は西原が指差した方に走っていきながら、叫ぶように説明をして遠ざかっていく。西原は、きょとんとした顔をしていたが盗難の件と聞き、何を思ったのか、冬四郎を追い掛けて走り出した。
「お、おいっ‼西原‼」
「宮前さんの補佐で盗難の件で出るって伝えといてくれ‼」
西原は同僚の男に向かって叫びながら、冬四郎は追い掛けていく。残された男は、管轄がと言いかけたがそれでも事件が解決されるならいいか、と楽観的にのんびりと階段を登り始めた。
「っ、宮前さん‼どういう事ですか?」
「に、西原君!?何で…ったく、後で始末書物だな。とにかく説明は後だ…谷代君が何かに巻き込まれたみたいで…むつが行っちまったんだ…」
「また、何かわけ分かんない事になってそうですね…所で、どうして2人が署から出てきたんですか?」
「…それは、むつに聞け。俺は付き添いだ」
「それなら、嫌でも追い付かないとですね」
ぐんっと西原が走るスピードを上げると、冬四郎も負けじとスピードを上げた。普段から鍛えて、身体を使っているからか、むつの後ろ姿はすぐに見えてきた。むつは、むつなりに懸命に走っている様子だが、これなら確実に追い付けると、冬四郎も西原も感じていた。




