むかっていく
『そうかもしれませんね…っと、あれ?』
「どうしたの?」
『いや、あれ…何か変なんですよ。家の近くのはずなんですけど…いつもと何か違うような…急に真っ暗になって、人も車も見えなくなって…』
「…どういう事?」
『や、分かんないっす…』
むつは廊下で壁にもたれながら、指先で下唇を何度も撫でた。急に真っ暗になったというなら、走って目眩でも起こしたのかと思わなくもないが、祐斗が倒れたような音がしたわけでもないし、普通に会話は出来ている。
「祐斗、電話をスピーカーにして、携帯のライトで辺りを照らしてみて?何か見える?」
ごそごそと雑音が入り、祐斗のあっという声が少し遠くから聞こえてきた。
「何か見えた?」
『いえ、本当に真っ暗です。ライトで照らして足元が見えてるくらいで…後は何も…どういう事でしょうか…』
「分からない。追い掛けていって、どこかに迷い混んだのかも…でも、うーん…何だろ?」
『…あっ、何か明かりが見えてきました。ん?何か楽しそうっていうか、ざわざわしてます』
「近付いてきてるの?」
『見たいです。何だろ…あ、え?』
「何?」
『あっ…っと、何て言ったら良いんでしょうか?団体なんですけど…人には見えないですね。箒とか…何だあれ?あ、あれ…篠田さん所で回収したマリア像?』
「祐斗…よくそんなわけわかんない物が近くに来てて、落ち着いていられるわね」
『はぁ…何か楽しそうですし。怖い感じがないので…でも、あ…えっ…う、うわっ…』
「祐斗っ!?」
『だっ、団体がこっちに…なっ、何だよ‼何で…なっ…むつさん…俺、何か巻き込まれた感じです』
「…うん、すでに何かに巻き込まれていたよね。真っ暗になった辺りから…」
『はい…どうしたら良いですか?俺、この団体に巻き込まれたまま、どこかへ向かって進んでて大丈夫でしょうか』
「大丈夫とは思えないけど…ずっと真っ暗?」
『あ、いえ…何か目が慣れてきたのかもしれないんですけど…町並みが…うちの近所を歩いてる感じです…でも、人も車もないですけど』
「そう…何だろ?わけわかんない事になってても祐斗が落ち着いててくれるのが、唯一の幸いだわ」
『そんなに落ち着いては…でも、怖くないんで…んー?あれ?むつさん、落武者みたいなのが少し前を歩いてるんですけど…あれ、見覚えあります。倉庫の筆に憑いてたのだと思います…』
「…うちから消えた子たちと一緒って事?篠田さんのマリア像がって言ってたもんね。ね、ライトは消しても大丈夫そうなら消して。充電温存で。電話も切らないで、このままにして…」
『何とかしてくれますか?』
「ん、ちょっと考えるよ…っても、何も思い付かないから、そっちに向かうわね」
『お願いします…』




