むかっていく
冬四郎はドアの前に立つと、ノックをしてから開けて入っていく。むつも後を追ってついていき、きょろきょろと辺りを見回した。何席もの机が並んでいるが、そこに人はあまり居ない。勿論の事ながら、西原の姿もなかった。
「忙しいのかな?」
「どうだろうな…あ、どうも。こんばんは、ご無沙汰てしおります」
知り合いを見つけたのか、冬四郎が挨拶をしながらそちらに向かっていくと、むつも小走りに追い掛けた。残業か何かで残っている者たちは、むつと冬四郎を物珍しそうに見ている。むつは冬四郎の背中に隠れて、その視線から逃れようとしている。
「…むつ、ご挨拶を。こちら、私の妹でして」
「は、初めまして…宮前むつです。お仕事中に突然お邪魔して申し訳ありません。西原さんはいらっしゃいますか?」
冬四郎の背中に少し隠れているものの、むつはきちんと頭を下げて挨拶をした。冬四郎と話していた男は、むつと冬四郎を見比べて、少し驚いたような顔をしている。
「…似てないな。宮前君の妹さんって事は、宮前警視正の妹さんだよな?写真は見てたけど…結構、大きいんだな」
大きいと言われて、むつはショックを受けたような顔をして、そっと冬四郎の背中に隠れた。
「あ、ごめんごめん。大人なんだなって事だよ?ごめん、女の子に対して失礼な言い方だった、ごめん。呑んだ時に写真を見せられたから…高校生とかそのくらいなのかと…」
晃がむつの写真を持ち歩いていて人に見せていた事は知っていたが、こうもあっちこっちで見せているのかと思うと、むつも冬四郎も恥ずかしくてならなかった。
「それで西原君に用事?西原君はちょっと出てるけど…すぐに戻ってくるよ。急ぎじゃないなら、お待ち頂けますか?こっちから西原君に戻るように連絡するし」
「良いですか?なら、お言葉に甘えて待たせて頂きます。あ、でも仕事で出てるんですか?」
「休憩に出てるだけ。そっちのソファーにどうぞ。今、お茶入れてくるから」
「あ、いえ、お構い無く」
「いやいや、宮前君とその妹さんが来てるのにお茶も出さないわけにはいかないよ」
男に案内され、むつと冬四郎はパーテーションで仕切られている所にあるソファーに座った。
「…おっきいって言われた。いちにぃは、あたしをどう話してるの?もう皆に写真見せたりするの止めて欲しい。恥ずかしすぎる」
「大人だったのに驚いてたもんな。あの人にとっては、いつまでも2、3歳の時のまんまなんだろうな。でも、ほら写真見て高校生くらいに見えるって事は若く見られたって事だし、な?」
「喜ばないわよ」
冬四郎のフォローもむなしく、むつは少し不機嫌そうな表情を浮かべてしっかりと弁当の入った袋を持っていた。




