むかっていく
むつは冬四郎の後に続いて署の中に入ると、落ち着きなくきょろきょろと辺りを見回した。
「…置いてくぞ」
「あ、はい…」
冬四郎は慣れた様子で、階段の方に向かっていく。むつはおいていかれないようにと、ぱたぱたとついていく。夏に仕事で出入りはしていたが、それは仕事だからか平気でいたが、今日は仕事でも何でもない。そうなると、やはり出入りしたくない場所である。
「…何、緊張してるんだ?」
「やましい事はないんだけどね…」
「やましい事なんてされたら困る」
ですよね、とむつは呟いた。色々と危うい事はしているが、まだ警察のお世話というお世話になった事はない。そう思うと、自分は少し優秀なんじゃないかって気がしてきていた。
「おい、どこまで行くんだ?」
緊張しながら、きょろきょろとして歩いてたむつはさらに階段を上がろうとしていた所で、冬四郎に腕を掴まれて引き留められた。
「ぼんやりしてんのか?」
「何か緊張で」
「西原君と会うのに?」
「たぶん、それもある。急に来て迷惑かなってのも今更思うし…居なかったらって考えると…」
「どっちも今更すぎるな。ま、大丈夫だろ?西原君はそんな事を迷惑だと思うほどじゃないだろ?その辺、お前のがよく知ってるだろうが」
「まぁ…」
「事件か何かでばたばたしてたら、それ置いてさっさと帰ればいい。仕事の邪魔になりたくないんだろ?」
「うん…」




