むかっていく
「だから、これも盗難なんじゃないかって思うの。それを社長にも皆にも話したんだけど…しろにぃにも聞いて貰おうと思って。警察に言ってもさ、来て貰えないでしょ?」
「まぁな…煮物の盗難って言われても…食べたの忘れたんじゃないかってなりそうだけど。で、それで俺を呼び出したのか?」
「うん」
いたって真剣な顔をして、むつが頷くと冬四郎は、ぶっと吹き出した。真剣に話しているのに、とむつが不機嫌そうな顔になると、冬四郎はますます笑みを浮かべた。
「誰かに入られたんじゃないかって不安になったんだな?でも、煮物盗むか?もうちょい…こう、金目の物とかなくなってる物ないか?」
「…まだ見てない」
「居てやるから、見てきなさい」
冬四郎が笑ったのが、バカにしてではないと分かったむつは、こくっと頷いて私室に入っていった。だが、ドアは開けっぱなしにしている。冬四郎が帰ってしまわないかと、不安になっているのかもしれない。
むつはごそごそと部屋の中を見ている。クローゼットを開けたり、棚を上から順番に見ていき、鍵のついた箱を開けたりとして貴重品の置いてある所を見ていく。
「どうだ?」
「現金も通帳も判子もある。でも…何か、無い?そんな気がするだけかな?」
「そうか。で、お前は何でそんなにずっと日本刀を抱えてるんだ?」
「先輩にね、鈴を持たせてたんだけどそれも無くなったんだって。だから、祐斗が曰く付きとかじゃなくて、力がある物が無くなってるんじゃないかって…だから1回帰ってきて日本刀があるか確認してその時に、煮物がないのも気付いたの」
「成る程な…無くならないように、ずっと持ってるってわけか。それは親父さん物だもんな」
「うん…鈴も古くはないから千切れる物じゃないのに無くなってるから、何か不安で」
「そうだな」
冬四郎は部屋には入らずに、むつの不安そうな顔を見ていた。むつは、何かない気がすると思うのか、部屋の中を用心深く何度も見ている。




