むかっていく
うちの子、とまるで自分の子のように言い、本当に困ったような顔をしているむつは、ほうっと溜め息をついている。
「…心配すんな。そのうち帰ってくるだろ。他に行く宛があって、そこに落ち着けるなら話は別だけどな」
山上の言い様は、まるで拾ってきた野良犬が居なくなってしまったかのようで、山上は山上なりに倉庫に置いてある物たちへの愛着があったのかもしれない。
「そうだよね。連れてかれた先が良い所なら、きっとそこに居た方が幸せよね。うちなんて、ろくに面倒も見てあげてないし」
「そうだな。最近はろくに手入れもしてやってなかったもんな」
「だよね。忙しかったし…箱に入れてる子らなんて、何か分からないくらい放置しちゃってたし」
「やっぱりあれだな、ガラス窓のついてる棚を買って、並べておいた方がいいかもな。何があるかすぐに分かる」
無くなった物への思いをはせるようにしして、むつと山上は窓の外を眺めている。何となく哀愁ただよう2人の背中を見て、颯介と祐斗は声がかけにくい。そもそも、山上が倉庫にある物の手入れをしていたなんて知りもしなかった。
「…あ、むつさん携帯鳴ってますよ」
「えー?」
今はただ、無くなった物への思いをはせており、電話に出るような気分にはなれないと顔に書いてある。
「…西原さんですよ?」
「………」
少しだけ迷うような表情を見せたが、むつは山上の隣を離れて携帯を見た。祐斗の言った通り、画面には西原と名前が表示されている。
「あっ‼もしかして、何か見付かったのかな?しろーちゃんが手配してくれて」
そんな気がしてきたのか、むつは少し嬉しそうな顔をしてすぐに電話出た。
「…西原さんからの電話が嬉しいわけじゃないって辺り、まだまだだね」
「まだまだ、ですね」
颯介と祐斗はここには居ない西原に、同情するかのように溜め息をついた。




