むかっていく
「あ、指紋の採取だ。むつもやってこい」
冬四郎が警官たちがきびきびと働いてるのを見て、むつの背中を軽く押した。遊びに混じってこいとでも言うような感じに、むつは頷くと颯介と山上の間に割り入っていった。
「仲直り出来たか?」
「…出来たよ」
「良かったな」
山上がそう言うと、むつは首を少し傾げたが頷いた。喧嘩をしていたわけじゃなく、少しお互いに気まずかっただけだが、山上からしたら2人がよそよそしい時は、どんな時でも喧嘩という事になるのだろう。
制服警官の指示に従って、むつはテープのような物の上に指を置いた。
「あの…窓には指紋がありませんね」
「あ、大掃除で窓拭きしちゃいました」
祐斗が申し訳なさそうに言うと、警官は少し残念そうにそうですか、と言った。物がなくなっていると気付いたのが、大掃除の最中なのだから仕方ない。
「…大掃除は再開してもいいんでしょうか?」
「えぇ、もう…そうですね、大丈夫ですよ。宮前さん、いかがですか?」
制服警官は冬四郎に声をかけた。何となくむつは冬四郎と制服警官を見比べた。声の掛け方に、親しみが込められているような気がしたのだ。
「大丈夫じゃないですか?山上さんいますし」
「それもそうですね」
2人とも山上の事を知っているのか、大丈夫ですねと頷き合っている。山上だから、とつくと山上が凄い人のように思えてくる。むつはじっと山上の顔を見ていた。すると何を思ったのか、山上はむつの額に、ぺちっとデコピンを食らわせた。
「もう…この前からおでこばっかり痛い」
「そういや、一昨日もでこが赤くなってたもんな」
「えびす様に足首掴まれて顔面から転んだの」
「どんくせぇ」
むつは、むっとしたようにばしばしと山上のジャケットの袖を叩いた。




