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あこがれとそうぐう
のんびりと入ってきた男は、山上を見付けると軽く会釈をした。
「ども、むつ居ますか?篠田さんは…と居ますね」
名前を呼ばれたむつは、立ち上がった。そして、男の顔を見ると少しだけ驚いたようだった。
「みや、お前…自宅謹慎だろ?」
「そうなんですよ。けど、ちと特例で篠田さんの護衛につく事になったんで…謹慎は少し休みって感じですね」
みやと呼ばれ男。宮前 冬四郎は、平気な顔で謹慎と言いつつ、笑っている。
その晴々とした表情をみて、むつ、颯介、山上は顔を見合わせた。晴々とした表情もだが、冬四郎の言っていた、篠田の護衛という言葉が気になった。
「護衛?」
「そうなんですよ。…お、むつ顔元に戻ったな。良かった、良かった」
勝手知ったる他人の家といった感じで、入ってきた冬四郎はむつの顔を見ると、微笑んだ。
「で、護衛って何?」
「あぁ、まだ聞いてないのか?篠田さん家に妖が出るんだとさ…夜な夜な、猫に話し掛けられるんでしたっけ?後、女の霊が出るって」
むつは、じっと篠田を見た。
「…疲れて寝惚けてるんじゃないですか?」