たいみんぐ
ふっと目を覚ましたむつは、もそもそと起き上がった。仕事を終えて、晃の車に乗って帰っている間に眠くなったのは覚えていた。だが、今は車の中などではない。見回した室内は、薄暗くとも自分の部屋だという事が分かる。手探りにベッドの横に置いてあるサイドボードの上のライトをつけた。明るさに目がくらんだが、それは一瞬の事ですぐに慣れた。
自室には自分1人だけ。マンションまで送って貰い、晃にでも抱えられて部屋まで運ばれたのだろう。寒気はするが、身体の内側が暑いような気がして、まだ熱があるんだなと実感させられる。だが、むつはベッドから抜け出してリビングに出た。
「…っ‼」
ソファーに座り、腕を組んでうつ向いている男が居てむつは驚いたが、自室から漏れる微かな光の中に浮かび上がるシルエットから、それが誰なのか分かった。男が1人居るだけで他には誰も居ない。足音を立てないようにして、むつはソファーに近寄った。そうっと男の顔を覗き込むと、すぅ、すぅと寝息が聞こえる。むつは部屋に戻って、使っていた毛布を持ち出すとその男、西原にかけてやった。
「…むつ?」
「ごめん、起こしちゃった?」
寝息がぴたっと止まり、西原が顔を上げた。
「いや…お前こそ、どうした?熱は?」
「まだあるみたい…」
「ベッドに戻れ。寝ないと体調も良くならないだろ?明日は大掃除するんだろ?」
「ん…先輩は?」
「俺はここで寝るから。毛布ありがとうな」
部屋に戻るか悩んだむつは、西原の隣に座って毛布の中に潜った。西原は眠そうに目を擦り、むつが側に寄ってくるとくすっと笑った。
「…体調悪いから、甘えてたんだな。気付かなくて悪かったな」
「ううん…」
「寝れそうにないのか?」
「目覚めちゃったかも…先輩は寝てていいよ?あたしな眠くなったら部屋に戻るから」
「それなら、最初から部屋に行けよ」
もそっと毛布の中で身動ぎをしただけで、むつは部屋に戻ろうとはしない。
「…一緒に部屋に行ってやろうか?」
膝を抱えて座っているむつは、ゆっくり西原の方を向いて、こくっと頷いた。
「ほら、身体冷えるから…行くぞ」
西原が優しくむつの背中を押すと、むつはソファーから下りて部屋に入っていく。西原はむつが持ってきてくれた毛布を持って、そのあとをついていく。
「ベッドに入って、横んなれ」
床に転がっていたクッションをベッドの側に置いて、西原はその上に座ると毛布を身体に巻き付けた。だが、むつがベッドの端によって、西原のシャツを引っ張っている。
「…一緒に寝ろってか?何かされるかもとか、そういう心配しなくていいのか?」
「病人にするような人じゃないの知ってる。それに…先輩なら…」
もにょもにょと消え入りそうな声で言うむつに、西原は少し困ったような顔をしたがベッドに潜り込んだ。




