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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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たいみんぐ

猫を連れて、むつと西原は、寺に戻ってきた。車の音に気付いたのか、ばたばたと晃が出てきた。怒られるのかと思ったむつだったが、晃はむつの頬を挟むようにして持ち、顔をあげさせた。そして、こつんっと額を当てた。


「うん…そんなに熱も上がってないな。終わったのか?それなら、さっさと報告して、請求書は?後日か?帰るぞ」


「う、うん…怒らないの?」


「怒られるような事したのか?」


「黙って出てきたから」


「お前の仕事のやり方に部外者が口を挟む必要はないだろ?車の鍵を持ち出したのは、あれだな。せめて、言ってから持ち出しなさい。っても、お前、周りが見えなくなる時あるからな、まぁ仕方ない。そんな事より熱があるのに、運転してないだろうな?」


「してない。先輩がしてくれたから」


「なら、いい。お疲れ様。西原君もありがとうな、お疲れ様」


晃が優しげな笑みを浮かべて西原を労うと、西原は何故か緊張したような面持ちで頭を下げている。そして、勝手に借りましたと、車の鍵を返した。


「報告してこい」


「はーい」


とことことむつが最初に通された部屋に向かっていくのを見て、晃を西原をじっと見た。何も悪い事はしていない西原だが、晃にまじまじと見られると尻込みしてしまう。


「あの、な…何か?」


「いいや?ふーんと思ってな」


にやっと笑った晃は、西原に行くぞと声をかけてむつが入っていった部屋に向かっていく。何が、ふーんなのか分からず西原は少し困惑した。何かを言われるよりも、何となく怖い。部屋に戻ると、むつは正座して新士に向かって早々に説明を始めている。


「ご遺体を持ち出そうとしたのは火車という妖で、地獄の使者とされている妖です。火車は、寺に天野さんが寝泊まりしているのみ見て、自宅に戻したくて怖がらせるつもりでしたようです。ご家族との仲の事を心配されてましたよ。それは天野さんの事ですから、どうしようと我々には関係ありませんし、火車も悪戯でする事はないと約束してくれましたから。たまに、檀家さんが持ってきたお供えものを頂くかもとは言ってましたけど…」


「では、ご遺体を動かした理由は俺に?」


「そういう事のようです。あとは、この猫と遊びたかったと…あら、この首輪とうしたの?火車からかしらね?」


白々しく嘘を言っているが、新士は逃げ出した猫をむつが捕まえてきた事に、ほっとしているようで作り話を信じきっている様子だった。


「火車は悪い者ではありません。仏が寺を見守るように、火車も寺を見守っているのですから…ご住職にも、そうお伝えください。まぁ、怖がっておられましたし、なかなか信じないかもしれませんが、もう火車が現れる事はありませんよ。追って報告書と請求書を送らせて頂きますので、よろしくお願いします…ってな感じで、帰るね」


「…えっ?」


「明日は明日で仕事なのよ?あたしこれでも忙しいし…体調も悪いもん。自分の家で休みたい。お部屋をご用意して頂いた事には感謝しております」


手をついて深々と頭を下げたむつだったが、ぱっと頭を上げるといそいそと日本刀を布で包んだ。そして、別れを惜しむように猫と鼻をくっつけている。


「また、会えたらその時は遊ぼうね?元気でいるんだよ。またね」


名残惜しそうに猫を新士の方に渡した。もう1度、深々と頭を下げたむつは帰る、と立ち上がった。

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