たいみんぐ
山上は、むつが抱いている猫が猫又になりかかっていると聞いて、驚いたような顔をしているが、晃はそれどころではない。むつが熱でおかしいのだと思い、心配で心配でたまらないのだ。
ぴぴっと鳴ると、待ち構えていた晃は体温計を取って数字を確認している。晃は溜め息をついて、体温計を山上にも見せた。
「8度6分…高いな。むつ、今夜はもう大丈夫だろうし…少し寝させて貰ったらどうだ?俺たちが起きて、見張ってるから」
「うん…今日は疲れたよ。えびす様の恋の応援しておっちゃんとその記憶にって撮影して…何か長い1日だわ…」
疲れきったように、むつは溜め息をついた。
「すみませんが…妹は熱があるので少し休ませてやりたいんですが」
「…分かりました。自宅の方で部屋を準備しますので、待っててください」
新士は再び、ぱたぱたと出ていく。
「むつ寝ないよ?」
「さっき、寝るって言ったじゃないか」
「いーや。自宅って天野さんの家に泊まるって事でしょ?嫌だ。お兄ちゃんと居る…」
むつは晃のジャケットの裾を掴んで、ぐいぐいと顔を押し付けている。甘えて駄々をこねている様子に、晃は嬉しそうな笑みを浮かべはしたが、むつの体調が気になるようで少し困っている。
「それに早期解決を目指すから…ねぇ、天野さんの家なんて行きたくないの…お兄ちゃん…」
甘えてくるむつは可愛くて仕方ないようで、でれっとした笑みを浮かべるもやはり、晃はむつに嫌でも休んで貰いたいようで何も言えずに居る。
「…もういい。お兄ちゃんあっちいって…むつには社長と先輩が居るもん」
晃が何も言わないと分かると、むつは起き上がって晃をあっちいけと押しやっている。そして、山上の方にくっつくように寄っていく。ショックを受けたような晃に、山上と西原は笑いを堪えている。
「で、むつその猫は本当に猫又になりかかってるのか?」
「うん…ほら、尻尾の横に新しい尻尾が出てきてる。よっぽど可愛がって貰ってる証拠だよね」
むつは猫の鼻に自分の鼻を押し付けるようにして、ぐりぐりとしている。猫は嫌がる素振りもなく、ふりっと尻尾を振っただけだった。




