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ひとりきり
民家も疎らな、少し寂しい場所だった。その1軒の家の前で吉岡は足を止めた。
「ここです」
外観は普通の一軒家だったが、玄関の光も頼りなげに、ついたり消えたりを繰り返している。
吉岡が鍵を開けて入っていく。
「お邪魔します…」
祐斗は、そろそろと上がった。気のせいなのか、外とは違ったひんやりした空気が漂っている。
家全体から、産毛の逆立つような嫌な雰囲気がしている。祐斗は、ごくっと唾を飲んだ。
リビングに案内され、お茶を出して貰ったが、祐斗はろくに口もつけなかった。吉岡が何かを言っていたが、それも耳には入ってこない。
何かに魅入られたように、祐斗は一点をじっと見ていた。そんな祐斗の只ならない様子を、吉岡がじっと見ている。
「あ、あの…谷代さん?谷代?」
「はいっ‼あ、はい…何でしょうか?」
「大丈夫ですか?ぼーっとしていたように見えましたが」
「あ、あはは…大丈夫です…大丈夫」
祐斗は笑って誤魔化した。
「何かそんなに気になるものでもありましたか?」
「いえ、何かそんな感じはしてますが…娘さんのお部屋とかありましたら、見せて頂けますか?」




