たいみんぐ
部屋に戻ってきて、冷めてしまった焼き芋をテーブルに置いたむつは、溜め息をつきながら上着を脱いで、椅子にかけた。すでに片付けもする気がないくらいの様子に、西原はついでのようにコートと一緒にむつのパーカーもハンガーにかけた。
「これ、どこにしまっとくんだ?」
「あーうん…大丈夫。やるよ…荷物、持ってくれてありがとう。とりあえず、コーヒーいれるね。上着もありがと」
落ち込んでいるようだったむつは、それでも笑みを見せた。西原は買い物袋をキッチンまで運んで、テーブルの上の灰皿を引き寄せると、タバコに火をつけた。むつは電気ポットに水を足して、スイッチを入れてから、買ってきた物を出して冷蔵庫にしまっていく。
「なぁ、ところでさ…お兄さんってどのお兄さんなんだ?山上さんと一緒って事は…」
西原が言いかけた所で、ピンポーンっとチャイムが鳴った。むつは画面に写る相手の顔を確認してから、受話器を取った。
「開けるね。玄関開けとくから、うるさいしチャイムは鳴らさないでね。ノックくらいはして」
素っ気なく一方的に言ってから、がちゃんっと少々乱暴に受話器を戻した。
「長男が来るの」
「警視正が…」
それには西原も少し嫌そうな顔をした。だが、もう今から帰るとも言えず、深く煙を吸い込んで、ゆっくり吐き出した。そして、もうすぐそこまでやって来ている、署は違えど上司と元上司に失礼ないようにと、タバコを揉み消した。
「ゆっくり吸っていいのに…お兄ちゃんに気遣う必要なんかないよ?」
「そうは言っても…仕事柄な。縦社会だから」
体育会系とも言える縦社会の中で、刑事として働いている西原は、気にしないでいられる程の神経は持ち合わせていない。これでも一応は、出世はしたいと頭の片隅程度には思っているからだ。




