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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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そんなひも

「…入って」


部屋の前までやってきた西原は、ドアを開けられても動けずに居た。立入禁止を言い渡されているのもあり、むつに入れと言われても、素直には入れない。イライラしてるのか、むつが舌打ちを鳴らすと、西原はそそくさと入った。スリッパも出されると、上がらないわけにはいかない。立入禁止と言われたが、入れと言われているし、もたもたしてこれ以上、むつの機嫌を損ねるわけにはいかない。


西原の手から紙袋を受け取ったむつは、それを部屋に置いてパーカーを脱いでから、戻ってきた。どうしていいのか分からずに立ち尽くしている西原を見て、むつはぷっと吹き出した。


「コートくらい脱ぎなよ?ご飯…何がいい?って言っても、冷蔵庫と要相談だけど」


「えっ?つ、作ってくれるのか?」


「うん。どこに行くかも決めてなかったでしょ?それに…ほら、この前のお礼も兼ねて…手作りでいいなら、だけど」


「いい、あ、うん…勿論。むつが作ってくれるなら…そんなに嬉しい事はないし。でも、俺も何か手伝うよ」


コートを脱いで、ハンガーにかけた西原は袖をまくって先にキッチンで冷蔵庫を開けているむつの横に並んだ。


「うーん…和食系かな?明日は、仕事?呑むにしても…あれならあたしが運転してあげるけど…終電間に合う時間内ならね」


「明日は休み。もし、もしもさ…終電に間に合わない時間だったら?」


「泊めてあげてもいいけど…」


「…今からそのつもりでいたら、怒るか?」


むつが黙ってうつ向くと、言い過ぎたか、と西原は反省して自分で運転して帰ると、言おうとした。だが、その前にむつが顔をあげて西原を見た。落ち着きなく、目がきょろきょろしているし、気のせいか頬が赤い。


「つ、次…立入禁止になるような事したら…社長に言うからね。いちにぃとしろーちゃんにも…」


「あ…ん、分かった。約束する…けど、ちょっと…その、いいか?嫌なら、嫌って言ってくれよ?嫌がる事したくないし…調子に乗ってるって思われるかもしれないけど…その、さ…」


冷気がだだ漏れになっている冷蔵庫をぱたんっと閉めた西原は、何か言いにくそうにもごもごとしている。


「…その、ぎゅってしてもいいか?」


むつは驚いたような顔をしていたが、だんだんと泣きそうに、くしゃっと顔を歪めていった。だが、すっと西原の 腰に手を当てて、こつんっと胸に額をつけた。少し震えているのが、腰に当てられた手から伝わってきている。西原はそうっとむつの背中に手を回して、優しく抱き締めた。


「…い、嫌とか思ってないからね」


すんっと鼻をすすってむつがくぐもった声を出すと、西原は何も言わずに頷いた。そして、少し腕に力を込めて抱き締めると、むつの身体の震えはゆっくりとおさまっていった。

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