そんなひも
「弁財天には、心に決めた者が居たのだな…ちっとも気付かなかった」
「うむ…だが、それは仕方のない事。あの方の気持ちを私や毘沙門天にどうこう言う権利はない。私たちの気持ちを聞いてくれたのだ…それだけでも、有り難いというもの。だから彼女の幸せを願ってやらねばなるまいよ」
奥村は優しくも、毘沙門天にとパイプ椅子を持ってきてやった。だからか、えびすも毘沙門天も、すっかり腰を落ち着けて居座ってしまっている。そして、フラれた事をくどくどと嘆いている。
むつも奥村も聞こえてはいるが、完全に無視して黙々と作業を行っている。神が2人も居ようと、関係ない。むつはともかく奥村には、期限が決まっている仕事があるのだ。それをしないわけにはいかない。
えびすと毘沙門天の深々とした溜め息は、これで何度目になるだろうか。分からないが、そろそろ聞き飽きてきた。
「…えびすが弁財天を好きなのは知っておったのだ。長い付き合いだし、見ていて分かっておった。だから、だからこそ隠しだてしたくなくて言ったのだ。なのに、お主ときたら…応援するなどと…」
「むむ…それは悪かった。だが、私にとっては毘沙門天も大事な七福神の1人。応援もしてやりたくなったのだ」
失恋した者同士、似た者同士で今度は男の友情を確かめ合うような話しになってきている。
「めんどくさっ」
ぼそっと呟いたむつは、タバコに火をつけて、煙を吐き出しながら、溜め息をついた。奥村も同じ気分なのか、煙と一緒に溜め息をついているようだ。




