ひとりきり
祐斗は仕事に集中出来ずに、何度か時計を見た。あと少しで、自分一人での初仕事だった。ドキドキして仕事所ではなかった。そんな時、ふいにドアが開き見慣れた人が入ってきた。
「たっだいまーっと」
「あ、むつさん‼おかえりなさい」
「ただいま。祐斗、頼んどいた仕事の進み具合はどう?」
大きな鞄を肩にかけ、黒く艶やかな長い髪を三つ編みにし、眼鏡をかけた女、玉奥むつが祐斗の後ろからパソコンを覗きこんだ。
ふわっとした甘い香りと背中に当たる、柔らかい感触に祐斗は、また違った意味でドキドキしていた。
「だいたいは…」
「うん、ありがと」
「むつ、次の仕事な」
山上がファイルをひらひらさせている。むつは、あからさまに溜め息をついてそれを受け取り中を見ている。
「祐斗が今夜、初仕事になった。電話だけ気にかけといてやってくれるか?」
「はーいって。本当に?大丈夫?」
むつはじっと祐斗を見た。祐斗は内心、むつが一緒に行くと言ってくれるのではないかと、少しばかり期待をしていた。
「そ、まぁ頑張って」
どんっと鞄をデスクに置くと、ポケットから出したタバコを器用に片手で1本取ると、くわえたままキッチンに入っていった。
時折、パラッと紙をめくる音が聞こえてきた。そして、冷蔵庫から飲み物を出し飲んだのだろう。あーっというおっさん臭い声がした。
むつはキッチンから出てくると、いつものショルダーバッグを持ちすぐに出ていった。
祐斗もそろそろ出る時間だった。




