そんなひも
奥村はむつの方は見ずに、独り言のように呟きながら、メモリーカードをカメラに差し込んだ。
「何があったのかは知らないわよ。でも、あんたらしくないわねぇ…えびすさんは、弁財天さんが好き。その気持ちがしっかりしてるから、毘沙門天さんに言う気になっただけ。150年だっけ?そんだけ思ってれば、そりゃあ決心も早いわよ。でも、あたしらの人生なんて短いし、飯食って寝たら昨日の気持ちと今日の気持ちは違うんだから。沢山迷って悩みなさい」
ふふんっと笑った奥村はカメラを覗いて、むつをレンズにおさめるとシャッターをきった。カメラを持って、頼りなさげに立ち、泣きそうに歪んだ顔だった。
「うーん…悩める乙女ってやつね。良いわねぇ‼青春してるわぁ」
「…おっちゃん、青春って言葉好きね」
「当たり前じゃない。人生でいう春よ?恋だけじゃなくって、出会いも別れも、常にある。生きてる限りは青春よ」
「パワフルだね」
「後悔したくないもの。1回きりの人生だもんね。ま、後悔なんて沢山するけど…次に活かしたらとか言われるけどさぁ忘れちゃうのよね。次に活かせる後悔って、なかなか無いわぁ…せいぜい、素直にってくらいかしらね」
「素直に、か…そうね」
むつは、ふぅっと息をつくとカメラを覗いた。ずっしりと重みを感じられる機械。それを通して見る奥村は、晴れやかな笑みを浮かべている。むつは、そっとシャッターをきってみた。カシャッと軽やかな音がした。




