そんなひも
むつの運転する車は、のびのびと走っていき住宅が建ち並ぶ辺りに入ってきた。むつは辺りを見回して、駐車場を探している。住宅だからか、コインパーキングは少なく、神社からは離れた所に車を止めた。
「…昼間の神社ってやっぱり人少ないわね」
奥村が周囲を見回しながら言った。住宅が建ち並んではいるが、ひっそりと静まり返っている。やはり神社の近くともなると、車や人の喧騒はない。むつは機材の入ったバッグを持たされているからか、あまり喋る気にはなれない様子だった。かぢゃがちゃとなる機材は何が入っているのか、むつは少し気になっていたが撮影は奥村の仕事だ。ちらちらとバッグを見はするが、聞いたりはしなかった。だが、その視線を奥村はしっかりと気付いて、にまっと口の端を持ち上げて笑った。
「ねぇ、えびすさん?毘沙門天さんとはどこでお話するのかしら?あたしとむつちゃんは隠れて見守るのに先に行かないと。準備もあるし」
「む…本殿の裏の森で。池がある辺りなら人も滅多に来ないのでな…そ、そこにベンチもあるし…その…」
「おっけーおっけー。むつちゃんと先に行って待ってるから。大丈夫よぉ‼あたしとむつちゃんがついてるもの‼」
あははっと笑って奥村は、えびすの背中をばしばしと叩いた。勇気づけているつもりなのだろうが、神を扱うにしては雑すぎる。だが、むつはその誰に対しても態度の変わらない奥村を好ましく思っている。
「…いつかこんな日が来るもんだよ。遅いか早いかって、だけで…先に行って待ってるよ」
むつはぽんっとえびすの肩を叩いて、重たいバッグを持ってよろよろと奥村の後をおっていった。




