そんなひも
プリンターから出てくる写真をむつの前に置きながら、えびすは黙って何やら考え込んでいる。むつと奥村は何も言わずに、黙々と自分の作業に没頭している。かちゃかちゃとキーボードを叩く音、さらさらと色鉛筆が紙を擦る音だけが静かに響いていた。
「…何枚、印刷してるんだ?」
「んー分かんない。後で数えてみる」
ぐりぐりとアルバムのページに模様を描いているむつをえびすは、興味深そうに見ている。
「…それは友達に渡すのか?」
「勿論。あたしが撮った写真なの。ま、趣味の範囲だし携帯のが多いからあれだけど…楽しい時の一瞬を写して形にしておくと、ずっと残るでしょ?見た時に、あぁあの時のって思い出すし…だから、写真って好きだわ」
「今はデータとして残して置く人の方が多いけどね。その方がかさばらないし」
「でも、ページをめくるのって思い出をたどっていくようで楽しいんだけどな…卒アルとかもじっくり見ちゃうよね。あぁあいつとなこんな事あったなーって」
「そうね。それが写真のいい所よね」
むつと奥村が、染々と話しているのを聞きながら、えびすは出てくる写真を黙々とむつの前に置いていっている。
「私も、欲しいな…」
えびすがぼそっと呟くと、キーボードを叩いていた手を止めた奥村が振り返って、にっこりと笑みを浮かべた。
「写真?撮ってあげるわよ?あたし、これでもプロだもん。あ、でも、お仕事としてよ?」
「…本当か?」
「えぇ。でも、先ずはえびすさん。あなたの気持ちは?はっきりしたの?」
えびすはプリンターから出てくる写真を見ながら、ふぅむと唸った。だが、何か決心がついたかのような顔つきをしている。奥村は、ふふっと笑った。
「じゃあ…聞こうかしら?どうしたいのかを」




