そんなひも
山上が西原を呼び出して、恋する元部下と話を聞いている頃、むつはそんな事とはつゆ知らず行き付けとも言える、カメラ屋に来ていた。個人経営のこじんまりとした店構えではあるが、写真の腕前はなかなかの物で、証明写真や七五三の時期にはかなり混んでいる。
「こんにちはーっ。おっちゃーん?」
「…むつちゃんか。何だか、久しぶり。そろそろ、写真がたまってきたのね?」
カウンターの奥からのっそりと出てきたのは、肩まで髪の毛を伸ばしたがりがりに痩せた男だった。
「うん。かなり…かなり現像して焼き増しも」
「即日?」
「うん。それでね…今日作業台とか使わせて貰えたらなーって思ってるんだけど」
「何を作るの?」
「アムバム。皆に渡すのに」
「…仕事は?」
「もう今年はない。あとは事務処理だけど…うちのバイト君のが終わってからの確認がね」
「そう。自分で全部やる?それなら、上着そこにかけて。あとは自由に使っていいわよ。分からない事あれば聞いて。あと、おっちゃんって呼ばないでちょーだい」
「だって、奥村さんだもん…」
「発音よ。は・つ・お・ん」
奥村写真店の店主奥村は、腕はいいしヘアもメークもしてくれる。だが、オネェ系で名前の呼び方に少しうるさいのだ。せめて、おっの部分を上げ気味に言ってと、ぷりぷり怒っている。




