そんなひも
「…山上さんは、むつが人じゃないから招待状が届いたって言いたいんですね?」
「人じゃない…というよりも、人から離れていってるんじゃないかって心配なんだ。人じゃないのは、俺の方だからな」
「…はぁ?何を言ってるんですか?面白くないですよ。しっかもこのタイミングで茶化すなんて」
西原が少し怒ったように、箸を置いて山上を正面からじっと見つめた。山上はどういうつもりなのか、平然としている。
「そう、かりかりすんな。折角の飯が不味くなるだろうが。それに、冷める前に食えよ」
山上は塩鯖をおかずに米を口に入れて、黙々と食事を続けている。西原の方はほとんど、手をつけていない。
「飯時にする話じゃないのは分かってる。でもな、お前がむつの側に居たいなら…その辺の事も考えておけよ?お前見たら…むつは普通じゃないんだからな」
ぎりっと西原は歯をくいしばった。山上の視線は冷たく、西原を責めているかのような物だった。
「みやには話してある。みやも少しそれは思ってるみたいだったぞ」
むつの兄である冬四郎にはすでに話してあり、その冬四郎までもがむつが人離れしてきているような気がすると感じているなら、本当にそうなのかもしれない。西原は、はっと顔を上げた。
「心当たり、あるな?」
「あります…臭いがって…でも、俺らには分からなくて…やけに嗅覚鋭いんだなってその時は思っただけですけど」
「あぁ…やけに嗅覚鋭くなってるな。それは俺らも知った。それでいて、妖のパーティーへの招待だからな。変に深読みもしちまうんだ」
「山上さんは、どう思いますか?むつは…」
「むつは人だろ。ただ、特殊な力があるからな…妖と紙一重な存在なのかもしれない」
話をしながらでも、しっかり食事を続けていた山上は最後の汁を飲み干した。茶碗には米粒1つとて、残ってはいない。それに比べて、西原の方はほとんど手付かずのまま残っている。
「…むつが能力が使えないって言って、仕事を辞めたいって考えてた時…引き留めるべきじゃなかったのかもしれないって思ってる」




