そんなひも
山上と共にやってきたのは、西原が好んで行く定食屋だった。以前、むつも連れてきた事があり、大柄でパワフルな女性が切り盛りしている。
「あぁら、としちゃん。お疲れ様」
「あ、おばちゃん。奥の座敷いいかな?」
「いいよ。ゆっくりしてきな」
山上が一緒に居るからか、女性は何も言わずに西原を奥へと通して熱い茶とメニュー表を置いてさっさと引っ込んだ。
「空気の読める人だな。女性にしては、かなり強そうだけど」
「良い人なんです。確かに強いですけど…仕事も知ってますから…かなりよくして貰ってます」
「そうか。そういう人は大事にしないとな」
西原は素直にはいと返事をした。だが、山上からのお話とやらが何なのか気になるようで、そわそわとしている。
「…先ずは注文してからだ。すみません、注文いいですか?」
「はいはーい」
2人の注文を聞き終えた女性は、山上をちらっと見て、西原を見た。誰なのかと聞きたいようだった。
「俺の元上司。で、今は…ほら前に女の子連れてきたろ?その子の勤めてる会社の社長」
「あら、そうなの。むつちゃん?だっけ?あの後、ご飯食べにふらっと来てくれたのよ。でも、元気ないみたいで、おかわりしなかったのよ」
大丈夫なのかしらと呟きながら、女性は厨房に入っていき、たんたんたんっと包丁で何かを刻み始めた。
「おかわりしないからむつが元気ないって…なかなか的確な事を言う人だな」
「えぇ…以前、むつはしっかりおかわりしてましたからね。その印象が強いんだと思います」




