そんなひも
結局、昨夜も寝不足となったよろず屋の4人は、それでもきちんと遅刻もせずに出社してきていた。大きな欠伸を繰り返すアルバイトの谷代祐斗は、前の席に座っている唯一の女である玉奥むつの顔をちらちらと盗み見ている。
「なぁに?」
「え…いや…写真どうかなって…むつさん、楽しそうにしてますから」
寝不足で出来た隈を隠す為か、大きなフレームの黒ぶち眼鏡をしている、むつは首を傾げた。
「ブレてるのはだいぶ消したけど…」
祐斗の言っている写真とは、昨日4人が行ってきたパーティーでの写真の事だった。携帯を車の中に忘れてきたむつは、イベント事の終盤から祐斗と山上の携帯を使って沢山の写真を撮っていた。そのデータを今朝からパソコンに取り込んで、1枚1枚チェックしている。
「またコルクボードに貼るんですか?」
「うん、勿論そのつもりよ。ちゃんとアルバムにもおさめてるけどね」
「…何だ、むつは写真が趣味だったのか?」
「知らなかったの?」
今日は本当にやる事がなく、社長である山上聖は読んでいた新聞をたたんで顔を上げた。昨夜のパーティーで、そこそこ呑んでいるのに、酒は残っていないようだしいつもと代わり無い。
「知らなかったな…」
「むつさんの家にコルクボードあって、そこに沢山の写真が張ってあるんですよ」
「初耳かも」
祐斗の隣に座っている大柄で穏やかそうな男、湯野颯介が意外と言いたそうな顔をしていた。
「って、何で祐斗がそんな事を知ってんだ?」
「前にお邪魔した時に見たからですよ。湯野さんも社長もむつさんの所に泊まった事あるじゃないですか…見ませんでしたか?」
むつの所に泊まったと言っても、遊びで泊まった事はなく、そんなのあったっけと首を傾げていた。むつは、あったよと言いながら、再び視線をパソコンに戻した。だいぶ、写真の整理をしていなかったからか、幼馴染みの朋枝菜々の依頼で訪れた学園での写真も出てきた。制服姿の自分と菜々。それに、スーツ姿で眼鏡をかけている短髪の男。むつは、その男の顔を見て、微かに溜め息をついて携帯をちらっと見た。




