てがみ
颯介が舞台から降り、残ったのは4人。むつ、山上、京井とアメと名乗っている男だ。むつが颯介と山上と話をしている間に、勝負はついたという事になる。京井同様の怪力の持ち主なのかもしれない。
仮面の男が、マイク越しに淡々と残った参加者を改めて紹介している。むつはその間アメと言う男をじっと見ながら、少しずつ首を傾げていった。アメという男は、むつの不躾な視線を感じているのか、ぷいっと顔を背けた。じろじろと観られて快く思う者は居ないが、何となくその仕草が気になった。
「って…うわっ」
京井にアメは強かったのかと聞こうと振り返ったむつは、不機嫌そうな顔を隠しもしない京井を見て驚いた。
「は、遥和さん?」
「…何です?」
「あの人…」
「夕雨ですよ」
「あ…あーっ‼」
思わぬ所に来て、知り合いが居る事を知ったむつは、ぱっと笑みを浮かべて喜んだ。そして、ぱたぱたとアメと名乗っている男の所に行くと、まじまじと男を見た。目桂はつけているが、ごつごつした顔といい、ずっしりとした落ち着きといい、むつの知っているからす天狗の夕雨だった。
「何で無視するの?」
「いや…無視などは…その…まさか、こんな所で会うなんて思いもしなかったものでな」
「あたしも、びっくりだよ。勲衛門さんは?」
「む…あっちだ」
夕雨が指差す方には、ぽよんっとした男が大きく手を振っていた。むつは、久しぶりに会う友達を見付けたかのように、大きく手を振っている。
「天狗もパーティー来るんだね」
「招待状が来たからな…予定があるわけでもないし。だが、犬神が居るとは…」
「うん。遥和さんの所にもうちの事務所にも招待状が来たから。一緒に来たの。ってゆーかさぁ、居るなら居るって教えてよ‼」
「それは…犬神が嫌がるだろうから…」
もにょもにょと夕雨が言うのを見て、2人は、相変わらずあまり仲が良くないんだなとむつは思った。だが、意外な所で夕雨と勲衛門に会えて、むつのはしゃいでる。
「むっちゃん…勝負そっちのけだね」
「はい…たぶん、途中から願いが叶うとかって、どうでもよくなってると思いますよ」
「うん。楽しそうだからね」
「むつさんらしいです…それより、今夜も遅くなりそうですよね」
「うん…あ、祐斗君、西原さんに連絡してあげてくれるかい?むっちゃんは遅くなるから、迎えは不要だって。たぶん、西原さんとの約束もむっちゃんは忘れてるよ」
「むつさん西原さんと会う約束してたんですか?へぇ…まぁあの様子じゃあ、忘れてますね。完全に状況を楽しんでますから」
携帯を取り出した祐斗は、手早く西原へのメッセージを作成して送った。返事はすぐにあった。
「むつにばーかって伝えとけ。ですって」
「本当、進展しない2人だよ」




