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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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てがみ

「では、両者ご準備を…」


むつは左手で台を掴んで右手を出した。ルルの肉厚な手が、むつの手を握ると嫌悪感なのか、ぞわぞわっと鳥肌が立った。手汗でもかいているのか、ぬるっとしている。


「宜しいですね?」


仮面の男がマイクを持っていない手で、むつとルルの手を上からそっと押さえた。すると、急にホール内がしんっとした。仮面の男は2人の顔をちらっと見ると、始め‼という声と共に手を離した。


むつは歯をくいしばって、右手に力をこめた。ルルも同時に力をこめて、むつの手をぐいぐいと押してくる。見かけ倒しではなく、本当に力があるようだ。見た目ではむつは非力そうな女の子でしかないが、意外と力は互角なのかどちらにも腕は傾かない。


「むつ…本気だな…」


「えぇ…互角のように見えるのが凄いです。相手は本気出してないって事でしょうか?」


「そうでもないと思いますよ?ほら…」


むつを見守っていた京井は男の足元を指差した。ずずっと男の足が、少しだけ滑るように動いた。


「むぅちゃんが押してます。あと一息…」


あと一息で、むつの勝ちだと京井が言うと、むつもそれが分かったかのように、くうっとくいしばった歯の隙間から呻き声を上げた。力は均衡しているようだったが、ルルが息を吐いてほんの少しだけ力が緩んだ一瞬の隙をつくようにむつは力をこめた。だんっとルルの手の甲が、台についた。


「…勝者、スズキっ!!」


仮面の男が、むつの手を取って持ち上げさせた。相撲取りのような男に女の子が押し勝ったからか、ホール内の歓声は一際大きくなった。むつも嬉しそうに、いえーいっと言って跳び跳ねている。1回戦目での喜び方にしては大袈裟かもしれないが、むつにとってはそれだけ大変だったという事だ。


「勝ったーっ‼」


ぱたぱたと3人が待つ所に戻ったむつは、嬉しそうに報告をした。


「でも、あの人の手汗かな?手ぬるぬる」


気持ち悪いと言うと、聞こえていたのか使用人が、さっとおしぼりを手渡してくれた。むつは、それでぐいぐいと念入りに手を拭った。

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