てがみ
プールの先にゴールがあると、仮面の男は言っていたし、まだ何かあるのかと思っていたが、すぐ目の前に白いテープがある。すでにほとんど歩いていたようなむつは、拍子抜けしたようにゴールを切った。
「…?」
「最後の方がゴールしました。皆様、盛大な拍手をお願い致します」
仮面の男の声に合わせて、不参加者とじゃん拳で負けた者たちが、ホールの方から、わぁわぁと歓声を上げて拍手をしている。
「こちらの女性、逆転のチャンスがあるのを知りながら、プールに落ちた参加者を助けていたのです。その為、公平な勝負とはなっておりません。よって、3回戦への出場を認めます」
わぁっと歓声が一際大きくなった。ぽかんっとした様子のむつだったが、ビリだったが、3回戦には出れるんだと分かり、ぱっと笑みを浮かべた。
「さて、では最終レースを行います。10組目の方、スタート位置にお並びください…」
喜びも束の間、本当に淡々と進むなぁと思いつつ、むつは蝶ネクタイの男から靴を受け取って、誘導されて霧の中から出ていった。
「むぅ…スズキさん」
「あ、ワンさん」
「溺れてた妖を助けてましたね。スズキさんらしかったですよ」
京井がまるで見ていかのように、にこやかに言うとむつは頷いた。京井の横には、颯介と山上しか居ない。
「…見てたの?」
「あぁ、モニターがな。ほれ」
山上が指差す方、屋敷のホールの中には大きなスクリーンがいつの間にか設置されている。それで、レースの様子が見れていたようだ。
「そうなんだ…で、ゆ…れいとぽんさんは?」
「負けたみたいだな。あっちの、ホールの中に2人とも戻ってるぞ」
むつが祐斗とぽんを探すように視線を向けると、跳び跳ねながら手を振る2人を見付けた。2人とも、プールに落ちたとかではなく単純に1着になれなかっただけのようだ。
「…2回戦でかなり減ったって事ね」
「そのようですね。1着の人のみが、出場出来るようですから…そこそこシビアですよ」
「次は何かしら…もうお外はやだ。寒い」
男のように長袖でジャケットを着ているわけでもないむつは、盛大なくしゃみをした。




