ひとりきり
西原に誘われて軽いジョギングと称して、1時間近くも走らされた祐斗は、膝に手をついてぜぇぜぇと息をしている。
肌寒くなってきた季節ではあるが、かなり汗が流れていた。西原も祐斗程ではないが、荒くなった息を整えるように歩いている。
「はぁ…温まったね。まだ子供らやってるけど、端で練習しようか?」
「ちょっ…まだ、待って、くださいよ」
西原の走るペースに、合わせるのはとても無理だった。それでも立ち止まったり歩かずジョギングをした祐斗は、喋るのも精一杯な様子だった。
「祐斗君は、生真面目っていうか。負けず嫌い?無理して走っても膝痛めたりするから、歩いたりしたら良いのに」
「そうですけど…何かこう、焦り、みたいな物を感じるんですよね。あそこにいると、だから」
「んー?そんなに凄い人いたっけ?」
「何でも出来る人ばっかですよ」
「そうでもないと思うけど。俺みたいな凡人には分からないけどねぇ」
西原はからからと笑いながら、道場の方に向かって歩き出している。
「ま、他所は他所。うちはうち、だよ」
ようやく息の整った祐斗は、西原に追い付き首を傾げた。言われている事は、何となく分かるが、そうですね、とも言えない心境だった。




