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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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おてつだい

サンタクロースの言った通り、子供の寝ている部屋の前でソリが止まると、かちっと中から窓の鍵が開いた。むつは荷台に乗せてある袋からプレゼントを取り出し、リストの名前と照らし合わせた。そして、そっと窓を開けるとひらっと部屋の中に入った。枕元にプレゼントを置いて、再び外に出た。それを何軒も繰り返していく。


「サンタさんって意外と大変ね」


「そうだな…人に覚えてても貰えなくても、ずっと続けていくんだもんな。大変だよな」


「うん…」


むつと西原は交互に、部屋に入り込んでプレゼントを置いていく。時折、気付かれそうにもなったが、子供が目を覚ます事はなかった。だが、ひやひやする。順調に家々を回っており、これなら時間より早く終われそうな気がしていた。


「…ん、何あれ?ごめん、止めて」


トナカイに引かれたソリに乗っているむつは、地上でちかっとしたオレンジ色の光を見た。西原が一緒になって、覗き込んでいる。むつと西原は、ぴったりと密着して、地上を見ている。


「…放火だ。宮前さんが追ってるやつだ。まだ火が小さい、消せるな。犯人も…あ、あいつだっ‼」


西原が指を指して言うとむつは、ぴんっと張った手綱をソリにくくりつけて、その上を綱渡りしていく。そして、先頭のトナカイの背中に乗って、ソリと繋いであるロープを外した。


「お、おいっ‼」


「しろーちゃんへのプレゼント決まったわ」


くっと鼻の頭にシワを寄せてむつが笑うと、西原は慌てて最後尾のトナカイの背中に飛び乗った。むつと西原を乗せたトナカイは、言われなくても分かっているのか、猛スピードで地上に降りていく。どどっどどっと足音を響かせて、2人を乗せたトナカイが小さな炎を嬉しそうに見ている男に、真っ直ぐに向かっていく。何の音かと男が振り向いた時には、トナカイが男の左右を通り抜けふわっと足が浮いたと思った時には、腹に強烈な痛みが走っていた。


プレゼントを配り終え、くったりと気絶した男を袋に詰め込んだむつは、西原と一緒に冬四郎の勤めている署に向かった。トナカイが引くソリが署の前で止まると、警備として立っていた制服警官がぎょっとした顔をした。


「宮前冬四郎にお渡しください」


大きな袋をむつと西原は引きずっていき、制服警官に押し付けると、何を聞かれても答えずに逃げるようにしてソリに乗り込んだ。


「…ちょっとした悪戯だよな」


「うん。でも、しろーちゃん喜んでくれたらいいな。で、先輩は?プレゼント何がいい?」


「うーん…特にないな。むつとは過ごせたし、一生に一度もないような経験したし」


西原は上空を掛けていくソリに乗って、むつの顔を見て微笑んでいる。


「…なら、何か考えとくね」


「ま、むつの部屋に飯お呼ばれしたいな」


「まだダメ。男子禁制」


はいはい、と西原はつぶやいたが少しも残念そうではなかった。


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