おてつだい
3人を乗せたソリは、濃い霧の中に入っていき、今度はゆっくりと降下していった。生暖かい風が吹く、湿度の高そうな所にやってきた。
「わぁ…お城だ」
霧を抜け、ソリが平地をゆっくり滑っていき、大きな城の前で止まった。桁違いな大きさの城に、菜々は呆然としている。
「むつ、誰かに招待されたって事?」
「さぁ?でも、城に連れ去られたってなると…良い方向な事は思い付きませんけど」
「悪い魔女とか居そうだもんな」
先に降りた西原は辺りを見回した。じっとりとした空気が肌に張り付くようで、少し気持ち悪い。夜だったはずなのに、霧を抜けたら昼間のような明るさだし初夏のように暖かい。
「なぁに…ここ。何か変じゃない?」
「変ですね…ここは…」
人が立ち入って良い場所ではないと祐斗は言いかけて、口をつぐんだ。そんな事を言って、菜々と西原を不安がされても何も始まらない。それに、何やら慌ただしい気配がしている。はっきりと聞き取れるわけではないが、遠くの方でざわついているのが分かる。
3人を導いてきて、むつの手紙を持ってきたトナカイが、再び案内をするかのように、ゆっくり歩き出した。3人はどこだか分からない場所に来ているからか、大人しくトナカイに従ってついていく。
トナカイは城の横を通って、とことことどこかに向かっていく。城の周りには何も無さそうで、濃い霧が立ち込めているだけだった。トナカイの後を追って、ずいっと祐斗が霧の中に入っていくと、菜々は心細いのか祐斗の袖をきゅっと掴んだ。
「大丈夫ですよ。行ってみましょう」
祐斗が手を差し出すと、菜々はおずおずとその手を取って、一緒に霧の中に入っていく。西原はそんな2人を後ろから、つまらなさそうに眺めていた。
霧の中を歩いていくと、ぼんやりと小屋のような物が見えてきた。縦長のビニールハウスのような小屋からは、がたがたとごそごそと忙しなく物音が聞こえている。トナカイはその小屋の前で止まって、3人の方を見た。
「ここ…?」
トナカイは頷いてみせると、前足でドアを押した。きいっとドアが開くと、中から声が聞こえてきた。
「…むつの声だわ‼」
祐斗を引っ張って、菜々はドアを大きく開けて中に入った。祐斗と菜々は、中に入ったものの、どういう状況か分からずに足を止めた。
「あ、やぁ祐斗君。遅かったね」
にこにこと手を振っているのは、祐斗も菜々も西原もよく知っている顔だった。祐斗のアルバイト先の上司でもある湯野颯介だった。
「ゆ、湯野さん?」




