おてつだい
むつからだと聞こえたのか、西原と菜々が両脇から祐斗の手元を覗き込んだ。祐斗はドキドキしながら、結んであった紙を丁寧にほどいて広げた。綺麗で読みやすい字が並んでいる。
「むつさんだ」
「むつね」
「むつだな」
さっと文面を読んで、1番下を見た3人はむつからの手紙だと確信した。手紙の内容は、ざっくりとしていてトナカイと一緒に来るように、とのたったの一言。だが、その一言でもむつだと分かったのは、1番下にFrom M,Tとあった。そのTでむつだと分かる。
「…むつからっていうのは分かる。確実にそうなのよ、これ…でも、さっぱり意味が分からないわよ?」
「そうだな…トナカイと一緒に来いって…どこに?菜々ちゃんだけが行くのか?」
「朋枝さんだけじゃ危ないんで、俺も一緒に行きますよ」
「いや、まぁ…菜々ちゃんだけで行かせるつもりないけどさ…トナカイと一緒に来いって何だ?あいつ、必要な事は書いても最低限がないな…」
「何を今更…」
西原が溜め息をつくと、祐斗は慣れてますからと言いたそうな顔をしていた。菜々が慰めるように、肩をぽんぽんと叩いてくれたが、何の慰めにもならない。
「よしっ、じゃあ行こっか。ついて行けばいいんでしょ?早く行くわよ、さ案内してちょうだい」
話はついたと言わんばかりに、菜々はトナカイに向かって言うと急かせるように、ぱしぱしと背中を叩いた。トナカイは表情も変えずに、3人に背中を向けると小走りに走り出した。菜々が当たり前のように走り出すと、祐斗と西原も追い掛けた。
「何で…むつさんのお友達ってこうも肝が据わってるんですかね…」
「そりゃあ…むつの友達だからだろ?」
「朋枝さんって意外とたくましい」
「じゃなきゃ、むつの親友で幼馴染みなんて、やってらんないだろうよ」
ですよね、と呆れながらも何故か祐斗は嬉しそうに笑っていた。西原も何となく、祐斗が嬉しく思っている理由が分かるのか、笑みを浮かべていた。
トナカイを追い掛けて、走って行った先は駅の駐車場だった。トナカイはそこで歩調を緩めて、菜々を振り返った。
「…あ、ソリ。これに乗るの?」
むつが連れ去られた時と同じ様に、トナカイが8頭立てのソリが駐車場に停められている。
「もう…どういう事ですか?」
「さっぱり分かんなねぇな」
菜々がちょこんっと荷台に乗り込むと、訳分かんないと言いながらも祐斗と西原も乗り込んだ。3人をここまで連れてきたトナカイが先に走り出すと、8頭のトナカイもゆっくり走り出した。ぎしっとソリが揺れて、滑らかにコンクリートの上にすべっていく。




