おてつだい
菜々に呼ばれて、むつの行方を追おうとしている祐斗と西原が悩んでいる頃。当の本人であるむつは、荷台にちょこんっと座ったまま呆然としていた。
「…何、ここ」
トナカイにバケツリレーのように回されて、ソリに乗せられたむつは飛び降りる事も出来ずに、どこをどう通ったのかも分からず、城のような所に連れてこられていた。車道を走っていたはずのトナカイは、1度も止まる事なくそれに事故を起こす事もなくここまでやってきていた。トナカイは、むつを乗せたまま城の前にやってきてゆっくりと止まった。
止まると、最後尾でむつをソリに放り投げたトナカイが振り向いた。そして、何度か顔を振った。降りてそっちに行けという事だろうか。むつはよく分からないまま、降りて城の門の前に立った。トナカイたちは、行く所があるのだろうか。むつを残して行ってしまった。
「置いてくのね…連れてこられて、今度は置き去りね。成る程…何とか言って欲しいもんだわ」
深々と溜め息を漏らしたむつだったが、仕事柄なのか度胸はある。どこなのか分からない所に1人にされた所で、泣き出したりはしない。
むつはどういう場所なのかと、辺りを見回してみた。菜々と居た時には、夜だったはずなのにここは、昼間のように明るい。だが、深い霧が立ち込めているようで遠くまでは見渡せない。全体的にもやがかかっているようで、何となく湿度の高そうな所ではある。それに、生暖かい。
「…嫌な感じの場所だわ」
雰囲気的に暗い気がして、すぐにでも帰りたくなる。だが、帰り方は分からない。トナカイもどこかに行ってしまい、見えなくなってしまった。じっとりと汗が出てきて、むつは上着を脱いだ。
どういう訳だか分からないが、連れてこられて、ここで降ろされたという事は、この城の人に呼ばれたと考えて良いのだろう。むつは上着を腕にかけて、大きなノッカーをゆっくり叩いた。




