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よろず屋-その日常-  作者: 幹藤 あさ
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おてつだい

エレベータの扉が開き、ぱっと明るいフロアに出ると待ち構えたようにエプロンをした店員が立っていた。予約をしていた2人は、名前を告げるとすぐに席に案内された。


「結構、普通ね」


「うん…良かった。下があんなんだから、どきどきしちゃったわよ」


2人が通された席は窓を正面にしていて夜景が楽しる、横並びだった。横並びなら話はしやすいから有り難いが、今の2人は夜景などというロマンチックさとは無縁な事を考えている。左右の席にどんな人が座ってるか分からないように、背の高い鑑賞植物があり、上からは傘のような物が出ている。


むつは渡されたメニューに目を通して、まずは飲み物を頼んだ。そして、すぐに食べ物の注文をした。注文はむつに任せているのか、菜々はメニューを見ようともしなかった。


注文した飲み物とグラスがテーブルに置かれ、そのあとで七輪が2人の間にどんっと置かれた。ボトルの栓をきゅぽっと開けたむつは、グラスを手に取ってとぷとぷとついだ。足の長い細いグラスに赤い液体が注がれ、菜々の前に置かれた。自分の分もついで、2人はにんまりと笑うとかちんっとグラスを合わせた。


「良い所見付けたよね。ワイン呑み放題、食べ放題の焼き肉…しかも、今日含めた4日間はカップル禁止」


くうっとワインを呑んだむつは、ふんっと鼻で笑ってグラスを置いた。カップルばかりの店には行きたくないというのが、ありありと態度に出ている。


「本当…ワインはグラスでもボトルでもってなると有り難いわよね。むつは迷う事なくボトルで頼んでたけど」


「だって、いちいち注文めんどくさい」


赤ワインなのでグラスには少量しかいれなかったが、2杯目だし、人目もないとなると、グラスの半分くらいまでたっぷりと注いだ。


「むつは色気もくそもないわね」


「いらない、いらない。今日は肉の日」


温まった七輪から、むわっとした熱気が漂ってきている。そして、注文していた牛タンがテーブルに置かれると、むつはさっそく網に乗せた。


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