とあるひのこと
1番乗り気ではなかった西原が、何だかんだ1番楽しんでいた。酒粕風呂で呑めなかった酒が振る舞われ、それに狸が生活している所とは言えど、清潔で獣臭くもなかった。料理は家庭的な物ばかりではあったが、子供の為、客人の為にと真心が込められているようでどれもうまかった。
「あ…そろそろ、やばくないですか?」
「ん、本当…ってか、しろーちゃんと遥和さんから着信が…気付かなかったや」
「怒られそうですね。もう日付変わりますよ」
「帰ろう‼やばい‼すみません、私たちそろそろ…連れが旅館で待ってるんです」
むつはそう言うと、上着を着た。寄ってきた子狸と別れを惜しむように鼻をこすり合わせていた。だが、祐斗に急かされるようにして、狸の家を後にした。少し酒も入っている4人は、怒られる事を思ってか、それでも少し足早になっていた。
4人がばたばたと旅館に戻ると、玄関には冬四郎、山上、京井が待ち構えたように立っていた。
「た、ただいまぁ…遅くなってごめんなさい」
祐斗、西原、菜々が黙ってしまうと、むつがへへっと様子を伺うようにしてとりあえず謝った。
「…全く、暖かいお茶淹れますから。早く上がってください。宮前さんと山上さんからはお話があると思いますので」
京井は4人がちゃんと帰ってきた事にほっとしたのか、先に奥に引っ込んだ。冬四郎と山上のキツい視線を感じながら、靴を脱いで部屋に入っていった。颯介、篠田、こさめはすでに寝たのか居ない。殊勝にも4人は座布団には座らずに、囲炉裏の前で正座をした。
「先ず。むつ、菜々ちゃん、2人共女の子だっていう自覚は?こんな遅くまで、ましてや知らない土地なんだぞ?何かあった時にどうする?ましてや温泉街で変な男だって居るだろうに。いくら、西原君と谷代君が一緒だったからって。京井さんは心配で何度も外まで探しに出てくれたんだぞ?きちんと謝っておきなさい」
むつの兄である冬四郎は、むつの幼馴染みでよく家に来ていた菜々の事は小さな時から知っている。それでか、2人の保護者のような存在ではある。むつも菜々も冬四郎に心配かけ、優しくではあるが怒られた事は相当堪えたようで、京井に向かって手をついて頭を下げると謝り、礼を言った。
「無事ならいいんですよ。でもね、やっぱり心配になりますから…電話くらい出てくださいね。さて、お2人は早くお風呂に入って来てください。外は寒かったでしょう?お茶は後でお部屋に持っていきますから。こさめさんも心配してましたよ」
はぁいと揃って返事をした2人は、祐斗、西原に申し訳ないような顔をしたが、山上に早く行けと言われると、そそくさと逃げるように2階に上がっていった。
「…で、お前らなぁ。特に西原、1番年上のくせして何してんだ‼少しはめを外しすぎてないか?祐斗もだぞ」
祐斗と西原に対しての説教がメインだったようで、山上からの雷が落ちた後には冬四郎の雷が落ち、こってりと絞られた2人ではあった。だが、丸1日を思い思いの相手と楽しく過ごせたのだから、説教をされるくらいなんともないようだった。
「谷代君も西原さんも、懲りてないようですね」
京井がちくりと言うと、冬四郎と山上が眉間に深いシワを刻んで舌打ちをした。




