とあるひのこと
「あっ…」
向こうは声を上げたが、4人にとっては知らない人であり無視して通りすぎようとしたが、走ってきた男はそれを遮るようにむつの前にやってきた。
「…何ですか?」
むつは子狸を隠すようにして、少し身をよじった。だが、子狸は怪我はしていても元気なのか、顔を出してきてしまう。山の中で、ライト持たずに走ってきた男からむつをかばうようにして祐斗と西原がずいっとむつの前に出た。
「あ…お前…昨日、むつと菜々ちゃんをスカウトしようとしたやつだな?何の用だ?」
「あ、いや…はい…いや、あの…そうなんですけど…あの、その…」
「何の用だよ?」
「え、その…その…」
男は何とも言えない感じで、むつの方をちらちらと見ている。何か気掛かりがあるようだった。祐斗と西原は、はっきりとしない男の態度に苛立ちを感じている。
「あ、分かった…この子、探してたんじゃない?親?にしては若いよね」
むつが祐斗と西原の間から顔を出して、子狸を男に見せた。子狸の方が明らかに、嬉しそうにしている。男は、子狸とむつとを見比べて、うなだれるようにして頷いた。
「…兄です」
「やっぱり。あんた、狸みたいな顔してるもんねぇ。化けるの下手。口下手だし」
「はぁ…あの、すみません…あの、弟たちがそいつが罠から人に出されたって聞いて…だから…」
「ほら。でも手当てしてあげなよ?」
むつが子狸を押し付けると、男はほっとした表情を浮かべて頭を下げた。




